児童相談所の役割とは?知っておきたい基礎知識と機能

KEYWORDS 自治体
児童相談所は「子どもと家庭を守る最後の砦」と言われています。近年、日本社会では児童虐待や貧困、不登校、いじめ、ヤングケアラーなど、子どもを取り巻く課題が増加し、複雑化しています。そうした中で、児童相談所は子どもの安全を守り、権利を擁護する中心的な役割を担っています。
しかし「名前は聞いたことがあるけれど、実際にどのような機能を果たしているのかよく分からない」という方も少なくありません。本記事では、児童相談所の役割を入門的に整理し、誰でも理解できる形で解説します。
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目次
子どもと家庭が直面する現実

児童相談所が必要とされる背景には、子どもと家庭が抱える深刻な問題があります。
子どもの貧困と生活環境の課題
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、日本の子どもの相対的貧困率は約14%にのぼります。特にひとり親世帯では44%以上と非常に高く、食事や衣服を十分に得られない子どもも少なくありません。例えば「食料が買えなかった経験がある」と答えたひとり親家庭は21%を超えています。経済的困難は教育機会の格差にも直結し、大学進学率が生活保護世帯の子どもで42%、児童養護施設出身の子どもで38%にとどまっている現状は深刻です。
このような背景から、児童相談所は「虐待や非行」だけでなく、生活基盤の安定をめぐる問題にも対応しています。貧困の連鎖を断ち切るためには、児童相談所と地域福祉との連携が欠かせません。
虐待・不登校・いじめの深刻化
児童虐待の相談件数は2022年度で22万件を超えました。心理的虐待(暴言・無視・DVの目撃など)が増えており、家庭内での孤立が深刻化しています。加えて、不登校は34万人、いじめの認知件数は73万件以上に達し、学校現場だけでは対応しきれない状況です。
児童相談所とは?
児童相談所の存在は法律に基づき、子どもの権利を守るための中心的な機関として設置されています。
法的根拠と設置の背景
児童相談所は児童福祉法に基づき、都道府県や政令指定都市に設置されています。法律の第一条では「すべての児童は愛され、保護される権利を持ち、健やかに成長することを保障される」と明記され、児童相談所はその理念を具体化する機関として機能します。
また、国連「子どもの権利条約」に基づき、子どもは単なる保護対象ではなく「権利の主体」であることが国際的にも確認されています。児童相談所はその権利を現場で守るための最前線であり、権限行使にあたっては常に子どもの最善の利益を第一に考えることが求められています。
「子どもの権利」を守る仕組みと役割
児童相談所は次の4つの権利を守る使命を持っています。
- 参加する権利
- 生きる権利
- 守られる権利
- 育つ権利
例えば、一時保護の判断を行う際にも、単に安全確保だけでなく、子どもの意見を聴取し、その意向を援助方針に反映させる努力が重視されます。これは、子ども自身が自らの人生に関する意思決定に参加する権利を持つという考え方に基づいています。児童相談所は単なる「保護の場」ではなく、子どもの声を尊重しながら成長を支える仕組みなのです。

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児童相談所の役割と4つの基本機能
児童相談所には幅広い役割がありますが、法律上は大きく4つの機能に整理されています。それぞれの機能は互いに連動し、子どもの安全と成長を守るための総合的な仕組みを形成しています。
市町村援助機能と相談機能
まず、児童相談所は市町村の子育て支援を後方から支える役割を持ちます。地域の相談窓口が対応できない専門的な問題に関しては、児童相談所が引き受け、市町村に情報提供や助言を行います。
さらに「相談機能」として、子どもや家庭の状況を調査し、心理士や医師による専門的な診断を行います。これに基づき援助方針を決定し、必要に応じて外部の関係機関とも連携して支援を展開します。この過程では「受理会議」や「判定会議」といった合議制がとられ、多角的な視点から意思決定が行われるのが特徴です。
一時保護・措置機能による安全確保
子どもの安全が直ちに脅かされる場合、児童相談所は家庭から子どもを一時的に保護する権限を持っています。一時保護は原則2か月以内とされますが、その間に子どもの行動観察や心理的評価を行い、最適な支援方針を立てます。
その後、必要に応じて「措置機能」により、子どもを里親や児童養護施設、乳児院などに預けます。これらの措置は子どもの最善の利益を守ることを目的としており、家庭復帰が望ましい場合には、支援を調整しながら段階的に家庭に戻す支援も行われます。児童相談所は「子どもの今」と「将来」の両方を見据えて、安全を確保する重要な機能を担っているのです。
子ども虐待対応と一時保護の仕組み

児童相談所の中でも最も重要な役割が虐待対応です。
虐待相談の増加と対応の流れ
児童虐待の相談件数は、1990年に全国で約1,000件だったものが、2022年度には22万件を超えるまでに増加しました。増加の背景には、社会の意識の高まりや通告義務の周知、警察からの通告件数の増加などがあります。
通告を受けた児童相談所は、48時間以内に子どもの安全確認を行う義務があります。これは「48時間ルール」と呼ばれ、重大な虐待死事件を教訓に導入されました。安全確認は原則として子ども本人に直接会う形で行われ、必要に応じて学校や医療機関、警察とも連携しながら事実を把握します。
このように虐待相談は「通告→調査→判断→支援」という流れで対応されます。迅速かつ多職種連携が求められるため、児童相談所は常に高い緊張感の中で業務にあたっています。
一時保護の目的と子どもの意見表明権
一時保護の目的は単なる避難ではなく、子どもを安全な場所に置いたうえで、生活状況や心理状態を詳しく把握することにあります。平均的な一時保護の期間は数週間から2か月程度で、その間に専門職による面接や心理検査、行動観察が行われます。
また、近年の制度改正により、子どもの意見表明権が強調されるようになりました。一時保護や措置の判断の際には、子どもの意思をできる限り尊重することが求められています。これは国連子どもの権利条約の理念にも合致しており、日本の児童相談所も国際的基準に沿った運営を行う方向へシフトしています。
児童相談所と地域・学校との連携
児童相談所は単独で動くのではなく、地域のネットワークと協力して子どもを支えます。
市町村や要対協との協働
要保護児童対策地域協議会(要対協)では、児童相談所・学校・警察・医療機関などが情報を共有し、家庭ごとに支援を検討します。複数の視点を組み合わせることで、より適切な対応が可能になります。
学校・地域・医療機関とのつながり
学校は子どもの生活の大部分を占める場であり、児童相談所との連携が不可欠です。担任やスクールカウンセラーが子どもの変化に早期に気づき、情報を児童相談所へ提供することで、深刻な事態を未然に防げるケースは多くあります。
また、医療機関との連携も重要です。虐待によるけがや発達の遅れを見抜けるのは医師や看護師であり、その情報を児童相談所が受け取ることで、適切な措置につなげられます。地域全体で子どもを見守るネットワークが構築されることこそが、児童相談所の力を最大化する基盤となります。
学びを深めるためのeラーニング紹介
児童相談所の役割を理解しようとすると、法律、心理、福祉、教育といった幅広い知識が必要になります。これらを一度に学ぶことは難しいですが、eラーニングを活用すれば体系的かつ段階的に学習を進められます。
初心者が学ぶべき基礎知識
初めて学ぶ方におすすめなのは「児童福祉法の基礎」「子どもの権利条約の要点」「児童相談所の業務フロー」といった入門的な知識です。これらを理解するだけで、児童相談所の仕組みがぐっと身近に感じられるようになります。
eラーニングで得られるメリット
eラーニングの大きな利点は、時間や場所を選ばず学べることです。多忙な福祉現場や行政の担当者にとって、自分のペースで学習できる環境は非常に貴重です。また、学んだ内容をすぐに現場で活用できるため、学習効果が実務につながりやすい点も特徴です。
さらに、eラーニングで体系的な知識を積み重ねることは、資格取得やキャリア形成にも有利に働きます。例えば、社会福祉士や公認心理師を目指す人にとって、児童相談所の制度や実務の理解は必須の知識となるでしょう。学び続けることが、子どもを守る力を強化し、自身の専門性を高めることにもつながるのです。
まとめ
児童相談所は、子どもの命と権利を守る最後の砦として社会に存在しています。その役割は相談や一時保護にとどまらず、地域や学校、医療機関との連携を通じて子どもと家庭を支えることに広がっています。
私たち一人ひとりが児童相談所の役割を理解し、正しい知識を身につけることは、子どもを守る第一歩です。eラーニングを活用すれば、基礎から実践まで体系的に学ぶことができ、将来的なキャリア形成にもつながります。学びを重ね、社会全体で子どもの権利を守っていくことが求められています。
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