人手が足りない!日本企業の大問題・人材不足を考える

近年、「人手不足」が日本企業にとって避けて通れない課題となっています。特に少子高齢化が進む中、生産年齢人口の減少は明確なトレンドとして現実のものとなっており、多くの企業で「人が足りない」「採用できてもすぐ辞めてしまう」といった声が聞かれます。実際、ロイターの調査では、約3分の2の日本企業が労働力不足によって事業運営に深刻な影響を受けていると回答しています。(参考:1月ロイター企業調査:人手不足の現状3割が「悪化」、経営への影響懸念は6割超)
人手不足の問題は、単に「人を雇えばいい」という単純な話ではありません。業務設計・働き方・組織文化・技術活用・採用戦略など、さまざまなレイヤーでの変革が問われます。本記事では、まず「なぜ人手が足りないのか」を整理し、そのうえで「企業にとっての影響」「具体的な対策」といった構成で解説します。最後には、導入の際に押さえておきたいポイントも述べていきます。
目次

人手不足の現状と原因

日本における人手不足の深刻さ
日本の企業の多くが人手不足を実感しており、中小企業においてはその比率が特に高くなっています。「人手不足」と「人材不足」は混同されがちですが、前者は単純に「働く人が足りない」状況を指し、後者は「求められるスキルや能力を持った人がいない」状況を指します。実際には多くの企業でこの両者が複雑に絡み合っています。
また、業界別に見ると、医療・福祉、建設、運輸・物流、小売・飲食といった業種で人手不足が特に顕著です。これらは、労働条件が過酷であったり、専門性・資格が求められたり、離職率が高かったりする業界が多いためです。
主な原因
人手不足の背景には複数の要因があります。以下に主なものを挙げます。
- 少子高齢化と人口減少
生産年齢人口(一般的に 15〜64歳)が長期的に減少しており、労働市場への供給が徐々に縮小しています。 - 働き手のニーズ変化
若年層を中心に仕事に求める条件(ワークライフバランス、柔軟な働き方、意義ある業務、自主性など)が変化しており、従来型の働き方を前提とした職場が敬遠されやすくなっています。 - 待遇・賃金の停滞
賃金や福利厚生などの条件が同業他社と比べて見劣りする、あるいは昇給・評価制度が不透明などの問題が、採用・定着に影響を及ぼしています。 - 業務設計の硬直性
古いやり方を前提とした業務フローや工程が残っており、従業員が効率的に働けない構造になっているケースがあります。これにより、一人あたりの生産性が伸び悩み、同じ人数で以前より効率良く回せない状態になります。 - ミスマッチ・経験・スキル要件の高さ
求人側の要件が高すぎたり、業界・企業側が求めるスキルと求職者とのミスマッチが起きやすいことも、人手が集まりにくい要因です。 - 離職率の高さ
採用できてもすぐ辞めてしまうことが多く、定着率が低いと人手の“ストック”が育ちません。特に若手や中途採用者、非正規雇用者などで離職率が高い傾向があります。
これらの原因は相互に影響を及ぼしあっており、単一施策だけで解決するのは難しいのが実情です。
人手不足が企業にもたらす影響
人手不足は単なる“人が足りない”という問題を超えて、企業経営にさまざまなリスクをもたらします。
経営パフォーマンスへの打撃
人員が不足すると、受注機会を逃したり、対応品質が低下し、納期遅れが常態化するなど、顧客満足度に直接的な悪影響を与えます。これが続けば、クレームの増加や契約の打ち切りといった形で顧客離れが進行し、収益の大幅な低下に繋がります。
また、営業や企画など、攻めの部門にも人が割けなくなり、将来的な成長機会を自ら逃してしまう結果にもなりかねません。業績の足かせとなるだけでなく、企業の信用力そのものにも影響を及ぼす可能性があります。
コスト構造の悪化と効率低下
限られた人数で業務を回すために、従業員の残業が増えたり、外部からの人材確保に頼ることで、派遣料や業務委託費、採用広告費などが膨れ上がります。これに加えて、新たに採用した人材への教育・研修コストも無視できません。
さらに、業務が属人化しやすくなり、誰かが欠けたときに対応できない体制になることも多く、日常業務の中で非効率やトラブルが増加する傾向にあります。コストが増える一方で、生産性が低下するという二重苦に陥りやすくなります。
組織の疲弊と変革力の喪失
長時間労働や業務過多が常態化すると、社員の心身に深刻な負荷がかかり、メンタル不調や離職につながります。一人ひとりのパフォーマンスが低下すれば、組織全体の士気も下がり、結果として負のスパイラルが加速します。
また、人手不足の状態では、改善提案や新たな挑戦をする余裕がなくなり、組織が変化への対応力を失っていきます。外部環境が変化しても柔軟に動けない“硬直した組織”となり、競争力を失うリスクが高まります。
具体的な対策と施策の方向性

人手不足を解消・緩和するには、「採用すれば終わり」ではなく、組織の仕組み・働き方・人材育成まで一体的に見直す必要があります。ここでは、効果的かつ現実的な施策を5つの軸で紹介します。
労働条件の見直しと働き方の柔軟化
まず土台となるのが「労働条件の改善」です。給与水準、休日制度、福利厚生、評価制度などを整備・見直すことで、求職者に選ばれやすくなり、既存社員の定着率も向上します。
また、働き方の柔軟性を高めることも重要です。フレックスタイム制、リモートワーク、副業解禁、週休3日制など、ライフスタイルに合わせた選択肢を提供することで、多様な層の人材を取り込みやすくなります。
多様な人材の積極活用(ダイバーシティ推進)
人手不足を補うには、これまで活用しきれていなかった人材層に注目することが不可欠です。女性、高齢者、障がい者、外国人、シニア世代など、多様なバックグラウンドを持つ人材の活用は、企業の新たな力になります。
ただし、雇用するだけでなく、言語サポートや職場環境の整備、ハラスメント防止など、受け入れ体制の構築が重要です。本人の能力を引き出し、長く働いてもらうには、制度だけでなく“文化”のアップデートも必要です。
業務効率化とテクノロジー導入
人手不足に対処する上で、業務の見直しとテクノロジーの活用は非常に有効です。まずは既存の業務フローを棚卸しし、無駄・重複・属人化を排除するところから始めましょう。
そのうえで、RPAやAI、チャットボット、業務支援SaaSなどを活用すれば、単純作業の自動化や業務負担の軽減が実現できます。人的リソースに頼りすぎず、少人数でも回る仕組みを構築することがカギです。
採用と育成の仕組みを再構築する
即戦力を外部から採るだけでなく、自社で人を育てる体制づくりも不可欠です。OJT、研修、キャリア支援制度などを強化し、「育てて戦力化する文化」を根付かせましょう。
また、採用手法そのものも見直すべきです。SNS採用、リファラル制度、ダイレクトリクルーティングなど、従来の枠を超えたアプローチが必要です。若手や未経験層にも門戸を広げ、企業としての成長性を伝える工夫が求められます。
外部連携と柔軟な人材配置の活用
社内だけですべてを賄おうとせず、外部との連携を柔軟に活用することも現実的な手段です。アウトソーシング、業務委託、業務シェア、人材派遣などを組み合わせて、コア業務に人員を集中させる戦略が効果的です。
また、定年延長や再雇用制度、外国人材の受け入れといった施策も、法制度を理解したうえで計画的に進めることで、企業の安定的な運営に貢献します。視野を広く持ち、自社に合った“人材ポートフォリオ”を再設計していくことが必要です。
実践にあたっての注意点・成功のための視点
対策を導入するにあたっては、以下のような視点を押さえておくことが成功の鍵となります。
フェーズと優先順位をつける
すべての施策を同時に実行するのは現実的に難しいため、自社の状況に応じて「緊急性・効果性」で優先順位をつけることが重要です。まずは “すぐに取りかかれる改善” と “中長期的な構造改革” を振り分けて段階的に進めましょう。
現場の声を重視する
現場を知らない経営・管理層だけで施策を決めると、導入してもうまく定着しないことが多いです。現場担当者の課題感・提案を取り入れながら進めること、また施策導入時に伴う研修・説明・フォローを丁寧に行うことが不可欠です。
KGI/KPI を設計する
どの施策が効果を出したかを評価できるよう、目標指標を明確にして運用すべきです。たとえば、「離職率の年間改善比率」「一人あたり売上(または付加価値)の向上率」「残業時間の削減率」「応募数・採用決定数の増加率」などを定め、定期的に測定・見直しを行うとよいでしょう。
トライ&エラーと改善の反復
全てを完璧に始める必要はありません。小さな改善をまず試し、結果を見ながら調整・拡張していく姿勢が現実的です。うまくいかなければ別のアプローチを試す柔軟さを持つことが重要です。
社内文化・風土の変革
制度を導入するだけでなく、それを支える企業文化・風土が変わらなければ、制度は形骸化しやすくなります。透明性ある制度運用、公正な評価、従業員の声を聞く風通しの良さ、挑戦を支える仕組みなどを醸成することも忘れてはなりません。
リスク管理・投資判断
自動化ツール導入やシステム更新などは初期投資がかかるため、費用対効果を慎重に見極める必要があります。また、外注や外国人採用などには契約・法令遵守・定着リスクも伴うため、リスク管理とフォロー体制を整えることが不可欠です。
まとめ:人手不足を「やむを得ない問題」にしないために
人手不足は、今や多くの企業が直面する共通課題です。だが、適切な視点と戦略を持たずに受け身で対応すれば、その苦しみは年々増していくでしょう。本質的な解決には、単なる人の補充だけではなく、業務構造・組織文化・技術活用・採用戦略などを一体的に見直す姿勢が求められます。
自社の現状を正しく把握し、まずは手が届く改善から着手しつつ、中長期の変革を併走させる。現場・経営双方の視点を繋ぎながらトライ&エラーを重ねることで、人手不足を持続可能な状態に転換することは可能です。
もし「どこから手をつければいいかわからない」「施策を実行する体制が整っていない」と感じている場合は、外部の専門家の力を借りるのも有効な選択肢です。
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