パワハラとカスハラの違いとは?企業が取り組むべきポイントを解説

職場における「パワハラ」と「カスハラ」の違いについて、お悩みではありませんか。職場でのハラスメント行為には、「モラハラ」や「マタハラ」など、さまざまな種類があり、そのなかでも「パワハラ」「カスハラ」は特に問題視されています。

パワハラは職場内の人間関係において権力を利用した「嫌がらせ」や「いじめ」を指し、カスハラは顧客からの理不尽な「クレーム」や「要求」を意味します。「カスハラ」の対策は、従業員や会社を守るためにも企業が取り組むべき事項です。中小企業においては、2022年4月からハラスメントの防止や対策を行うことが義務化されました。

この記事では、「パワハラ」と「カスハラ」の違いや「カスハラ」の具体例と企業における影響などについて解説します。ぜひ参考にしてください。

目次

パワハラとカスタマーハラスメント(カスハラ)の違いとは?

ハラスメントとは、「嫌がらせ」や「いじめ」など、精神的にダメージを与えてしまう迷惑行為です。

職場におけるハラスメントには、さまざまな種類があり「パワハラ」や「セクシャルハラスメント(セクハラ)」、「マタニティハラスメント(マタハラ)」が社会的にも大きな問題となっています。

ここでは、「パワハラ」と「カスハラ」の違いについて解説します。

カスハラの定義

「カスハラ」とは、顧客が優位的な立場を利用し、企業やその従業員に対して理不尽な要求やクレームを執拗に行う迷惑行為です。

法令のなかには、「パワハラ」や「セクハラ」などの定義はありますが、「カスハラ」の定義はありません。ただし、厚生労働省の示す「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、以下のとおり定義されています。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業関係が害されるもの

引用:厚生労働省(カスタマーハラスメント対策企業マニュアル


また、2023年9月には、「心理的負荷による精神障害の認定基準」の改正により、「カスハラ」を原因とした精神障害が労災認定基準に新たに追加されました。

カスハラと一般的なクレームの違い

「カスハラ」と「一般的なクレーム」には大きな違いがあります。

「カスハラ」は顧客からの要求が妥当性を逸脱したり、要求手段や態様に問題があったりするため、商品やサービス改善につながりません。「一般的なクレーム」は、顧客が購入した商品不具合や不当なサービスなどの不満を企業に対し、適切に伝えるため、商品やサービスの改善につながります。そのため、「一般的なクレーム」には、真摯に向き合う必要があるといえます。

「カスハラ」なのか「一般的なクレーム」をしっかり見極め対応する必要があるでしょう。

パワハラとカスハラの共通点と相違点

「パワハラ」と「カスハラ」の共通点と相違点は以下のとおりです。

共通点・立場上弱い人に対して、優位的な立場を利用し、嫌がらせやいじめが行われる。
・心身ともに精神的ダメージを受け、休職や退職に追い込まれる可能性がある。
相違点・「パワハラ」は主に内部の人間による行為であるが、「カスハラ」は主に外部の人間による行為である。
・「パワハラ」は社内対応が中心、「カスハラ」は社外対応が中心となる。

「パワハラ」は、職権や上下関係などを背景に行使され、人権を侵害する言動を繰り返すことを指します。業務上の必要な指導であっても、適正な範囲を超えるとハラスメントに該当する恐れがあります。

「カスハラ」は、顧客や取引先からのハラスメント行為を指し、優位的な立場を利用して従業員を精神的に追い詰めダメージを与えることが特徴です。一般的なクレームとは異なり、義務のないことを求めたり、要求が理不尽であったり、さらに暴言や暴力、セクハラなどを伴う異常な行為が行われます。

カスハラの具体例とその影響

「カスハラ」の具体例と企業における影響について紹介します。

カスハラの具体例

「カスハラ」のような行為が増えた要因は、SNSの普及が挙げられます。SNSを通じて、顧客側の発言力が増大したことにより、企業を簡単に批評できるようになったのです。そのため、企業がそれに屈してしまう構図が生まれやすくなりました。

これまでも「カスハラ」に相当する行為はあったものの、近年さまざまな種類のハラスメントが問題視され、新たなハラスメントの類型として取り上げられるようになったものと考えられます。

具体例は、以下のとおりです。

身体的な攻撃
(暴行・傷害など)
・家賃の支払いを要求した従業員の胸元を掴み壁に押し付ける。
・従業員に体当たりや頭突きを行う。
・酩酊状態の乗客に対し、声をかけた鉄道係員を殴りかかる。
精神的な攻撃
(暴言・脅迫など)
・インターネットで晒してやると脅迫する。
・攻撃的な言葉を吐き捨て、強くカウンターを叩く。
・機械の故障によるトラブルに対応しようとした従業員に攻撃的な暴言を吐く。
不当な要求・購入した商品に傷がついていたとして従業員に土下座を要求する。
・介護施設において利用者家族が執拗に過度なケアを要求する。
・汚れがない部屋にもかかわらず清掃不備を指摘し、部屋のグレードアップを要求する。
継続的・執拗な言動・短時間に集中して、攻撃的な暴言のほか、無言電話に嫌がらせを100回以上繰り返す。
拘束的な行動・市役所の窓口で6時間に及ぶ長電話をする。
・真夏の炎天下のなか、配達員に対し長時間説教をする。

カスハラを放置するリスク

企業が「カスハラ」に当たる行為に対し適切な対応を怠り放置すれば、以下のリスクを負う恐れがあります。

  • 従業員の精神的ダメージによる離職者や休職者の増加
  • 「安全配慮義務違反」で従業員から訴えられる
  • 企業の信用やブランド価値が低下する など

特に、従業員の精神的ダメージによる離職者や休職者の増加すると、企業としての生産性も低下するため、「カスハラ」に対しては、毅然とした対応をとる必要があるといえるでしょう。

カスハラの対策は企業の責任

2020年6月には、パワハラの防止に関する法律「改正労働施策総合推進法」が施行。中小企業は2022年4月からその対象となり、ハラスメントの防止や対策を行うことが義務化されました。

「カスハラ」の対策についても「労働者をハラスメントから守る」という観点から、企業が責任をもって対策を講じる必要があります。パワハラ防止法に違反した場合の罰則は設けられていませんが、「勧告」や「指導」の対象となってしまう恐れがあるため注意が必要です。

カスハラに備え企業が取るべき防止策

ここでは、「カスハラ」に対し、どのような対策が必要なのかを確認していきましょう。

マニュアルの策定

従業員が柔軟に対応できるよう、事前に「カスハラ」に対するマニュアルの整備が必要です。

「カスハラ」に対するマニュアルは、以下のような内容を整理し明確化するとよいでしょう。

現場対応の手順・現場監督者などの責任者を呼ぶまたは共同で対応する
・対象となる事実や事象を明確化(限定的に謝罪)
・顧客の名前や連絡先などを聞く・相談窓口への情報共有
本社(本部)との連携・本社と連携し、対応すべきケースを明確化
・本社への連絡フローを整備

顧客による「カスハラ」の行為類型にはさまざまなケースが考えられるため、柔軟に対応ができるように対策を立てておくことが重要です。

社内研修の実施

社内研修により、全ての従業員が「カスハラ」に対し適切に対応できるよう、教育を行うことが重要といえるでしょう。従業員も意味や対処法をしっかり理解する必要があります。

「カスハラ」対応の社内研修内容は、以下のとおりです。

  • カスハラの定義や該当行為の例
  • 正当なクレームとの違い
  • カスハラの判断基準や事例
  • パターン別の対処法
  • 苦情対応の基本的な流れ
  • 顧客への接し方のポイント
  • 記録の作成方法
  • その他注意点
  • ケーススタディ など

厚生労働省が対策研修の動画や資料を公開しているため、社内研修をする場合、適宜参考にしながら定期的に社内研修を実施しましょう。

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相談窓口の設置

「カスハラ」に対応した従業員は、精神的なダメージが大きく1人では抱えきれなくなるため、相談できる「相談窓口」を設置しておくとよいでしょう。従業員の心身のダメージが残らないよう、産業医などの専門家と連携を行いケアすることが企業には求められます。

カスハラが起こった場合の対応フロー

「カスハラ」が実際に起こった場合の一般的な対応フローは、以下のとおりです。

  • 顧客の主張を聞き取って記録する
  • 現場と本部で情報を共有する
  • 現場と本社(本部)のいずれが対応するか判断する
  • 会社の対応方針を決定し、顧客に伝える
  • カスハラの被害を受けた従業員のケアを実施する
  • 加害者に対する訴訟を検討する

「カスハラ」の対応は、対応マニュアルに沿って行うため、「カスハラ」が起こった場合の対応フローは、「対応マニュアル」に記載する必要があります。

まとめ

「パワハラ」は職場内の人間関係において権力を利用した「嫌がらせ」や「いじめ」を指し、「カスハラ」は顧客からの理不尽な「クレーム」や「要求」を意味します。近年では、「モラハラ」や「マタハラ」など、さまざまな職場におけるハラスメント行為の種類があり、特に「パワハラ」や「カスハラ」は問題視されています。

「カスハラ」の対策は、従業員と会社を守る観点から、企業は取り組むべき事項といえるでしょう。また、中小企業においては、2022年4月からハラスメントの防止や対策を行うことが義務化されています。

この記事では、「パワハラ」と「カスハラ」の違いや「カスハラ」の具体例と企業における影響などについて説明しました。「カスハラ」は、さまざまなケースが想定されるため、企業は必要な防止策を講じ、従業員と会社を守りながら、従業員もしっかり「カスハラ」に対応ができるよう取り組みましょう。