従業員の情報漏えいを防ぐには?今すぐできる3つの予防策

近年、従業員による機密情報の持ち出しや不正利用によって、企業が多大な損害を受けるケースが後を絶ちません。
たとえば、元社員が自社の設計データを競合企業へ流出させたり、顧客情報を私的な目的で利用したりといった事例が実際に発生しています。
情報漏えいは、企業の信用を失墜させるだけでなく、取引先との関係悪化や法的責任の追及にもつながります。

とくに近年では、クラウドストレージやUSBメモリなど、データの持ち出しが容易な環境が整っており、意図的・偶発的を問わず、情報が外部に流出するリスクが高まっています。
このような中で企業が守るべきは、技術情報や顧客リストといった「営業秘密」だけではありません。社内文書、社外メール、会議資料など、業務に関わるあらゆる情報が保護の対象になります。

そこで重要になるのが、「技術」「ルール」「人」の三方向からの予防策です。
以下では、物理的・技術的管理、規程整備、社員教育という三本柱で、従業員による秘密情報の持ち出しや流用を防ぐ方法を解説します。

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目次

秘密情報漏えいがもたらす企業への影響

実際の事例に学ぶ深刻な損害

秘密情報漏えいは、一人の従業員の軽率な行為が企業全体の信頼を揺るがすことがあります。
以下は実際に報告された主な事例です。

  • 大手鉄鋼メーカーS社:元社員が外国企業に設計図を漏えい。20年以上の研究成果が失われ、関連企業との和解金は約300億円。
  • 教育事業を行うB社:委託先の社員が顧客情報をスマートフォンで撮影し、名簿業者に転売。最終的に6次流出まで拡大し、純利益が前年同期比で82.2%減。
  • 旅行会社:社員が数千件の顧客データを私用パソコンに保存し、転職先で営業利用。既存顧客の信頼を失い、契約解消が相次ぐ。
  • 通信会社S社:退職直前に5G関連の内部資料をメールで私用アドレスに送信し、約170件のファイルを不正持ち出し。

これらのケースに共通するのは、「本人の意図が小さくても、企業全体の被害は極めて大きくなる」という点です。
経済的損失にとどまらず、企業ブランドの失墜、社員や顧客の信頼低下など、長期的な影響を及ぼすことが多いのです。

統計データにみる漏えい経路と傾向

IPA(情報処理推進機構)の調査によれば、営業秘密の漏えい原因として最も多いのは「退職者による持ち出し」と「現職従業員の誤操作・ルール違反」です。特に、退職・転職を控えた社員による不正なデータ持ち出しは年々増加傾向にあります。
この結果は、単にセキュリティ技術の問題ではなく、従業員一人ひとりの情報リテラシーや意識がいかに重要かを示しています。

持ち出し・流用を防ぐための3つの柱

① 物理的・技術的な管理体制の強化

最初の柱は、物理的およびシステム面での管理です。
USBメモリや外部ストレージへの書き出し制限、社内ネットワークへのアクセス権限の厳格化、電子メールの送信制御などが代表的です。
また、秘密情報を扱うパソコンやサーバーには、アンチウイルスソフトやファイアウォールの導入、OSの定期更新を徹底する必要があります。加えて、重要情報への接近自体を難しくする「アクセス制御」も有効です。
例えば、部門ごとに閲覧可能なフォルダを分け、退職予定者のアクセス権限を事前に見直すなど、運用面での管理を強化しましょう。

オフィス環境においても、不要文書の即時廃棄や施錠保管、防犯カメラの設置といった対策が効果的です。
これらの取り組みは単なる監視ではなく、「漏えいしづらい職場環境をつくる」ための基盤整備といえます。

② 規程・契約による法的ルール整備

2つ目の柱は、就業規則や秘密情報管理規程、誓約書によるルール整備です。
従業員が守るべき秘密情報の範囲や、退職後の秘密保持義務を明確にしておくことで、トラブル発生時の法的裏付けが得られます。
特に誓約書では、対象となる情報を具体的に記載し、過度に広い範囲を定めないことが重要です。秘密保持義務は憲法上の営業の自由を制限するため、合理的な範囲で設計する必要があります。

また、退職時には秘密情報を返還・削除する義務を明文化し、退職手続き時に誓約書を再確認することが望ましいでしょう。
こうした明確なルールがあることで、「知らなかった」「秘密とは思わなかった」といった言い訳を防ぎ、意識の甘さを抑止できます。

③ 社員教育とeラーニングによる意識改革

最後の柱は、人の意識を変える教育です。

どんなに厳重なシステムや契約があっても、従業員が情報管理の重要性を理解していなければ、ルールは形骸化します。定期的な社内研修に加え、eラーニングを活用すれば、部署や勤務地に関係なく全社員に同一水準の教育を提供できます。
学習内容には、秘密情報の定義、漏えい事例、法的責任、日常業務での注意点などを組み込み、理解と共感を促す構成が効果的です。

eラーニングは、単なる知識伝達ではなく、「自分の業務の中で守るべき情報は何か」を考える契機になります。
つまり、技術・ルール・教育の三本柱を一体的に機能させることが、最も強固な情報セキュリティ文化を築く鍵となります。

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漏えいが発覚した場合の初動と対応

営業秘密該当性の確認と証拠保全

万が一、情報漏えいが疑われる事態が発生した場合、まず行うべきは「事実確認」と「証拠保全」です。
どの情報が流出したのか、誰がアクセスしたのか、いつ・どの経路で持ち出されたのかを迅速に特定する必要があります。同時に、システムのアクセスログやメール履歴、外部記録媒体の使用履歴などを保存し、改ざんや削除を防ぐことが重要です。

そのうえで、対象となる情報が「営業秘密」に該当するかを確認します。
不正競争防止法において営業秘密と認められるには、下記の3要件を満たす必要があります。

①秘密として管理されていること(秘密管理性)
②事業活動に有用な情報であること(有用性)
③公に知られていないこと(非公知性)

この3点が揃っていれば、企業は法的に強い保護を受けることが可能です。

法的手段(警告書・仮処分・損害賠償・刑事告訴)

漏えいが確認された場合、企業が取るべき法的手段は次の流れに沿って進みます。

  1. 警告書の送付
     まず、情報の返還や使用停止を求める正式な書面を送付します。
     この段階で解決に至ることもあります。
  2. 仮処分の申立て
     相手の使用を即時に差し止めるための緊急的措置です。
     訴訟より早く、被害拡大を防げます。
  3. 損害賠償請求
     実際に発生した損害に対して補償を求めます。
     ただし、損害額の立証は難しく、誓約書で違約金を定めておくと有効です。
  4. 刑事告訴
     営業秘密の三要件を満たす場合、刑事事件として告訴することが可能です。
     社会的制裁効果が高く、再発防止につながります。

これらの対応は、スピードと証拠の確保が鍵です。
平時から、緊急時の対応フローを社内で共有しておくことが、被害を最小限に抑えるために欠かせません。

社内で今日からできる予防アクション

リスクチェックと情報分類の見直し

予防策は、特別なシステム導入に限りません。
まず、自社が扱う情報を「機密情報」「社外秘」「一般情報」などに分類し、誰がどの範囲までアクセスできるかを再確認することから始めましょう。
特に「退職予定者」「外部委託先」「派遣社員」など、境界的な立場の人に対しては、アクセス制限を段階的に調整する仕組みが有効です。

部署別・職種別の管理ポイント

部署や職種によって、情報の重要度や取り扱い方は異なります。
たとえば、営業部では顧客情報の管理、開発部では設計図や技術データの保護が求められます。
それぞれの部門でリスクの種類を可視化し、現場で実践しやすいルールに落とし込むことが重要です。
現場主導の情報管理は、単なる「守る義務」ではなく、「信頼を守る文化」を根付かせる効果があります。

eラーニングを活用した継続的な教育

定期的な研修だけでは、知識の定着や行動の変化を維持することは難しいものです。

そこで役立つのが、eラーニングによる継続教育です。社員が自分のペースで学習でき、理解度をテストやシナリオ形式で確認できる仕組みを設けると効果的です。
また、最新の漏えい事例や法改正情報を反映したコンテンツを定期的に更新することで、常に“今の現場”に合った教育を実現できます。

教育はルールの押し付けではなく、全員で企業を守る「共通の約束」をつくるプロセスです。
その認識が広がれば、社員一人ひとりが自然にリスクを意識し、組織全体の防御力が高まります。

まとめ

従業員による秘密情報の持ち出しや流用を防ぐためには、
① 物理的・技術的な管理、② 規程・契約の整備、③ 教育による意識改革
の三本柱を同時に機能させることが不可欠です。
どれか一つでも欠ければ、隙が生まれ、思わぬ漏えいを招く恐れがあります。

そして、真の予防とは「禁止」ではなく「理解」によって支えられるものです。
すべての従業員が、自分の業務に関わる情報を正しく理解し、「これは社外に出してはいけない」と判断できる感覚を持つこと。
それこそが、企業が持続的に信頼を守る最大の防衛策です。

まずは、あなた自身の業務で扱う情報を見直し、どの範囲が機密にあたるのかを確認してみてください。
そこから、組織全体の安全文化が始まります。

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