改正公益通報者保護法とは?企業に求められる新たなコンプライアンス基準
コンプライアンス違反の未然防止と早期発見は、現代の企業経営における重要課題となっています。2022年6月1日の改正公益通報者保護法の施行により、従業員数300人超の事業者には内部通報体制の整備が義務付けられました。
しかし、多くの企業では「具体的にどのような体制を整備すべきか」「通報者の保護をどこまで徹底すべきか」といった実務的な課題に直面しています。
本記事では、改正法のポイントから実務での具体的な対応まで、企業のコンプライアンス担当者が押さえるべき重要事項を解説します。法改正への実務対応にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
改正公益通報者保護法の基本的な理解
企業や行政機関などで働く人が、不正行為や法令違反を見つけた場合に、安心して通報できる環境を整えることを目的に制定された「改正公益通報者保護法」。企業として把握しておくべき基本について、わかりやすく解説します。
公益通報者保護法を分かりやすく解説
公益通報者保護法は、企業や行政機関での不正を発見した人が、それを通報したことで不利益を受けることがないように守る法律です。
この法律は、特に企業の内部でのコンプライアンス強化を目的としており、不正行為が発覚した場合でも通報者が安心して行動できる環境を整える役割を果たしています。
保護される内容 | 具体例 |
解雇からの保護 | 通報を理由とした解雇は無効 |
降格・減給の防止 | 通報者への不利益な配置転換は禁止 |
精神的嫌がらせの禁止 | 通報者への嫌がらせや仲間外しは違法 |
個人情報の保護 | 通報者の氏名等の秘密を保持 |
違法行為や消費者に対する重大なリスクなどが明らかになった場合、通報者がその内容を正確に報告することで、社会全体の安全を守ることが可能になります。
通報者の保護を強化することで、企業内での透明性を高め、信頼される組織づくりに寄与する法律です。
2022年公益通報者保護法改正で何が変わったのか
2022年6月の改正によって、以下の重要な変更が加えられました。
- 従業員300人超の事業者に内部通報体制の整備が義務化
- 通報窓口の設置
- 通報対応体制の整備
- 通報者保護の規程作成
- 通報対象者の範囲が拡大
- 退職者(退職後1年以内)
- 役員
- 取引先の従業員
- 守秘義務規定の新設
- 通報に関与した担当者に守秘義務を課す
- 違反した場合は罰則(30万円以下の罰金)
これにより、一定規模以上の企業は、通報者が安心して報告できる体制を整える必要があります。さらに、通報内容の適切な対応を行わなかった企業には罰則が科されるようになり、実効性のある法整備が進められました。
また、通報者の個人情報を慎重に取り扱う義務も強化され、匿名性の保護が徹底されるようになったのです。これらの改正点により、企業はより高度なコンプライアンス体制を構築することが求められています。
公益通報者保護法の対象となる通報者
公益通報者保護法の対象となるのはどういった人なのでしょうか。 法改正で大きく広がったその対象範囲を見ていきましょう。
公益通報者とは
公益通報者保護法で保護される「公益通報者」の範囲が、2022年の改正で大きく広がりました。
▼保護対象
対象者 | 保護される期間 |
現役の労働者 | 在職中 |
退職者 | 退職後1年以内 |
役員 | 在任中 |
派遣労働者 | 派遣期間中 |
取引先従業員 | 取引関係が継続中 |
特に注目すべきは、これまで保護対象外だった「役員」と「退職者」が新たに加わった点です。
通報対象事実とは
法律で保護される通報対象事実は、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 国民の生命、身体、財産、その他の利益の保護に関わる法律違反
- 刑罰の対象となる行為
- 行政処分の対象となる行為
具体的な例としては
- 食品衛生法違反
- 廃棄物処理法違反
- 個人情報保護法違反
- 独占禁止法違反
などが挙げられます。
通報者は、これらの事実を正確かつ誠実に報告することで、法的保護を受けることができます。
保護対象から外れるケースと注意点
通報者がすべて保護されるわけではなく、一定の条件を満たさない場合は保護対象から外れることがあります。
- 誤った情報に基づく通報
- 事実確認を怠った場合
- 噂だけを根拠にした場合
- 不正の目的による通報
- 個人的な恨みによる場合
- 金銭目的の場合
- 通報の方法が不適切
- SNSでの情報拡散
- メディアへの情報提供(一定の条件を満たさない場合)
これらに該当する場合、通報者は法的な保護を受けられないだけでなく、逆に法的責任を問われる可能性もあります。企業や通報者にとって重要なのは、正確な事実に基づき適切に通報することです。
そのため、通報する際には専門家や法律の助言を受けることが推奨されます。
改正公益通報者保護法における禁止行為
改正公益通報者保護法では、通報者に対して不利益な取り扱いをすることが禁止されています。ここでは、具体的な禁止行為を確認しましょう。
不利益取扱いの禁止
公益通報を理由とした不利益取扱いは、法律で明確に禁止されています。
禁止される不利益取扱い | 具体例 |
雇用関係の終了 | 解雇、退職勧奨、契約更新拒否 |
労働条件の不利益変更 | 降格、減給、不当な配置転換 |
キャリアへの影響 | 昇進・昇格の妨害、研修機会の剥奪 |
日常業務での嫌がらせ | 過大な業務の強要、仕事外し |
これは、通報者が安心して報告できる環境を整えるための基本的な保護措置です。企業は、通報後の従業員への対応に十分配慮する必要があります。
通報者の特定・報復行為の禁止
通報者を特定しようとする行為自体が禁止されています。
▼具体的な禁止事項
- 通報者を探す目的での社内調査
- 通報者を特定するための聞き込み
- 防犯カメラ映像の不当な確認
- 社内メール履歴の不正な調査
特に、通報者の身元を明らかにする行為や、それに基づく不利益な対応は罰則の対象となります。
不当な妨害行為の禁止
通報を妨害する以下のような行為も禁止されています。
- 通報前の妨害
- 通報窓口の利用制限
- 通報についての事前承認制
- 通報を思いとどまらせる圧力
- 通報後の妨害
- 通報の取り下げ要求
- 虚偽の説明の強要
- 関係資料の破棄の強要
企業は通報者の意思を尊重し、適切な対応を取る義務があります。
報告の隠蔽や虚偽対応の禁止
通報内容の調査や報告における不正行為も禁止されています。
- 証拠書類の改ざんや破棄
- 調査結果の意図的な歪曲
- 関係者への口止め
- 虚偽の調査報告書の作成
企業は社会的信用を失うだけでなく、法的責任を問われる可能性があります。
通報内容の不当な漏洩の禁止
通報情報の取り扱いには、特に厳格な守秘義務が課されています。以下の行為は重大な法令違反となります。
- 通報者の個人情報の漏洩
- 通報内容の無断開示
- 調査状況の不適切な公開
- 関係者以外への情報共有
違反した場合、最大で30万円の罰金が科される可能性があります。
企業は、情報管理の徹底と、通報者のプライバシー保護に努めなければなりません。
コンプライアンス研修
企業はCSR(Corporate Social Responsibility)と呼ばれる、社会的責任を果たす必要があります。社員1人1人がモラルやルールに対する意識を高く持ち、社会的規範となる行動をとり、法令順守を推し進めていくことが、組織発展の土台となります。
コンプライアンスとCSRは密接に関連しています。企業がコンプライアンスを重視することは、法律や規制に従い、倫理的な行動を取ることを意味します。コンプライアンスが重視されることで、企業は法的リスクを軽減し、法律違反による罰金や訴訟、業界規制機関からの制裁を回避することができます。また、適切なコンプライアンスは企業の信頼性を高め、顧客や取引先、投資家からの信頼を築くのに役立ちます。
コンプライアンス体制整備の具体的な方法
企業が改正公益通報者保護法に対応するためには、具体的な措置が必要です。
内部通報窓口の設置
効果的な内部通報制度には、複数の通報窓口の設置が不可欠です。
以下の通報窓口の設置が推奨されます。
窓口の種類 | メリット | 設置方法 |
社内窓口 | 即時対応が可能 | 法務部門・人事部門に設置 |
社外窓口 | 匿名性が高い | 法律事務所・専門会社に委託 |
Web窓口 | 24時間受付可能 | 専用システムの導入 |
多言語対応窓口 | グローバル対応 | 翻訳サービスとの連携 |
窓口は、従業員が気軽に通報できるよう、匿名性を確保した仕組みを取り入れることが望まれます。
通報対応マニュアルの整備
通報受付から調査・是正までの一連のプロセスを明確化したマニュアルが必要です。
▼マニュアルに含めることが推奨される項目
- 通報受付手順
- 調査実施フロー
- 是正措置の判断基準
- 通報者へのフィードバック方法
- 記録保存ルール
マニュアルには、通報の受理から調査、是正措置に至るまでの具体的な手順を明記する必要があります。
これにより、対応の一貫性と透明性が向上します。
通報者保護措置の強化
通報者保護のための具体的な施策を実施します。
- 情報管理の厳格化
- アクセス権限の制限
- 保存データの暗号化
- 通信経路の暗号化
- 報復行為の防止措置
- 人事評価の監視
- 配置転換時のチェック
- 退職時の確認
これにより、通報への心理的な障壁を取り除くことができます。
従業員への教育・研修の実施
効果的な教育プログラムの実施が重要です。
- 新入社員研修での基礎知識付与
- 管理職向けの詳細研修
- 定期的なeラーニング
- 事例を用いたワークショップ
意義や具体的な利用方法について周知することで、通報制度の利用促進にもつながります。
リスクアセスメントの実施
定期的なリスク評価と改善が必要です。
- 評価すべき項目
- 通報件数の推移
- 対応期間の分析
- 通報者満足度
- システムの脆弱性
- 改善アクションの例
- 窓口の増設
- 担当者の増員
- システムのアップデート
- マニュアルの改訂
内部通報制度における弱点や改善点を把握することで、より実効性のある体制を構築できるでしょう。
まとめ
改正公益通報者保護法は、通報者を保護し、企業に対して高いコンプライアンス基準を求めるものです。企業が適切な対応を行うことで、不正行為の防止だけでなく、社内の信頼性向上やリスクの軽減にもつながります。
今後は、法律の趣旨を理解し、通報制度の整備や従業員教育を通じて、より健全な企業運営を目指しましょう。