【2025年11月】沖縄県で37万世帯断水!水道管老朽化が招いた危機と対策
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2025年11月24日午前3時、沖縄県大宜味村で発生した水道管破裂事故は、水道インフラの老朽化がもたらす深刻なリスクを改めて浮き彫りにしました。この事故により、沖縄本島中南部を中心とした17市町村、推計最大37万世帯が断水する事態となり、県民生活や経済活動に甚大な影響を及ぼしています。
破裂したのは1967年に敷設された導水管で、法定耐用年数の40年をはるかに超える58年間も使用されていました。この事例は、全国各地で進行する水道インフラの老朽化問題に警鐘を鳴らすものであり、私たちは今、抜本的な対策を講じる必要に迫られています。
本記事では、沖縄県の大規模断水事故の詳細を検証しながら、水道管老朽化がもたらすリスクと、企業や自治体が実践すべき具体的な対策について解説します。あなたの地域や企業は、このような事態に備えられているでしょうか。
目次
沖縄県大規模断水事故の全容
事故発生の経緯と被害状況
2025年11月24日午前3時頃、沖縄県国頭郡大宜味村塩屋の県道9号地下を通る県管理導水管で大規模な漏水が発生しました。この事故により、北部地区のダムから南部への送水が完全に停止し、沖縄本島の広範囲にわたって深刻な影響が広がりました。
破裂した導水管は直径750ミリの「中系列導水管」と呼ばれるもので、沖縄最大の福地ダムから名護浄水場へ水を運ぶ重要な基幹インフラです。漏水の勢いは凄まじく、付近の道路は大きく陥没し、緊急車両の通行にも支障をきたす事態となりました。
県企業局の発表によると、この事故で断水または減圧給水の影響を受けた地域は以下の通りです。
| 影響地域 | 世帯数(推計) | 主な影響内容 |
|---|---|---|
| 那覇市・浦添市・宜野湾市等中南部 | 約35万世帯 | 完全断水または大幅減圧 |
| 名護市・本部町等北部 | 約2万世帯 | 一部断水・減圧給水 |
| 断水予定なし地域(北谷町等) | – | 独自水源により影響なし |
玉城デニー知事は24日夕方に危機管理対策本部会議を開き、「県民や工業用水の使用者に深くおわびする」とのメッセージを発表しました。この事故は、一般家庭での断水が生じた初めてのケースとなり、沖縄県の水道史上最大規模の危機となっています。
社会生活への深刻な影響
断水による影響は多岐にわたり、県民生活のあらゆる場面に深刻な打撃を与えました。
那覇空港ビルディングは25日朝から、館内飲食店全44店舗の営業を取りやめる決定を下しました。航空機への給水を優先するためです。観光立県である沖縄にとって、空港機能への影響は経済的損失も計り知れません。
教育現場でも混乱が生じました。中南部の多くの学校が25日の給食提供を中止し、授業を午前中で切り上げる対応を取りました。子どもたちの学習機会が失われただけでなく、保護者の就労にも影響が及んでいます。
さらに深刻なのは、ごみ処理施設への影響です。読谷村と嘉手納町から一般廃棄物を受け入れる比謝川行政事務組合の焼却処理施設が、水不足により稼働停止を検討する事態となりました。これにより、25日以降のごみ収集に支障が出る恐れがあり、衛生面での二次的な問題も懸念されています。
医療機関も例外ではありません。多くの病院が節水対応を余儀なくされ、一部では手術の延期や外来診療の制限といった措置が取られました。患者の生命に直結する医療サービスへの影響は、水道インフラの重要性を改めて認識させるものとなっています。
水道管老朽化の深刻な実態
58年前の導水管が破裂した背景
今回破裂した中系列導水管は、沖縄が日本に復帰する前の1967年に敷設されたものです。法定耐用年数が40年とされる中、58年間も使用され続けてきました。なぜこのような老朽化した設備が放置されていたのでしょうか。
県企業局によると、この導水管の近くには比較的新しい「西系列導水管」(直径1350ミリ、より大容量)が通っていることから、中系列導水管の改修や更新は優先度が低いと判断され、対応が先送りされてきたということです。つまり、「代替ルートがあるから大丈夫」という判断が、今回の大規模災害を招いた一因となったのです。
しかし、この「代替ルート」である西系列導水管も、今回の事故で管が露出し、送水停止を余儀なくされました。管が露出したまま送水すると、管内の圧力を抑えきれず破損する可能性があるためです。結果として、複数の送水ルートを持つという安全策が、十分に機能しなかったことが明らかになりました。
さらに問題なのは、県が今回破損した箇所の導水管をいつ点検したかについて「確認中」としている点です。定期的な点検が適切に行われていたのか、点検結果が改修計画に反映されていたのか、管理体制そのものに疑問が残ります。
全国に広がる水道管老朽化の実態
沖縄県だけが特別なのではありません。全国の水道管老朽化は深刻な状況にあります。
| 項目 | 全国平均データ | 備考 |
|---|---|---|
| 法定耐用年数超過管路の割合 | 約20% | 2022年度時点 |
| 管路更新率 | 0.68% | このペースでは全更新に150年 |
| 年間漏水事故件数 | 約2万件 | 主要因は老朽化 |
厚生労働省のデータによると、全国の水道管のうち法定耐用年数(40年)を超えた管路の割合は約20%に達しています。しかし、管路の更新率は年間わずか0.68%程度にとどまっており、このペースで計算すると、すべての管路を更新するには150年以上かかることになります。
高度経済成長期に集中的に整備された水道インフラが一斉に老朽化を迎える中、更新工事は追いついていません。自治体の財政難、技術者不足、住民への影響を考慮した工事時期の調整など、複合的な要因が更新を遅らせているのです。
水道管の老朽化がもたらすリスクは、単なる断水だけではありません。錆びた管からの鉄分溶出による水質悪化、地盤沈下による二次災害、漏水による水資源の無駄など、様々な問題を引き起こします。ある試算では、全国で年間約8億トンもの水が漏水により失われているとされ、これは東京ドーム約640杯分に相当します。
先送りされてきた更新工事の実態
沖縄県の事例では、もう一つの重要な問題が明らかになりました。それは、改修工事の優先順位付けと計画の甘さです。
県は、老朽化対策として「東系列導水路トンネル」の改修工事を少しずつ進めていました。この導水路は1973年から1976年にかけて建設されたもので、老朽化のため通年使用はせず、水の需要が減る時期に送水を停止して工事を行っていたのです。
しかし、今回の緊急事態を受けて、県はこの工事を中断し、東系列導水路トンネルからの送水を再開する決定を下しました。つまり、完全に改修が終わっていない設備を緊急的に稼働させざるを得ない状況に陥ったのです。
これは、複数の老朽化設備を抱えながら、すべてを同時に改修することができない自治体の苦しい実情を物語っています。財政的制約の中で、どの設備を優先的に改修すべきか、リスク評価が適切に行われていたのか、今回の事故は重大な教訓を残しました。
企業と自治体が取るべき老朽化対策
リスク評価と優先順位付けの重要性
水道管老朽化対策の第一歩は、正確なリスク評価です。単に耐用年数を超えているかどうかだけでなく、以下の要素を総合的に判断する必要があります。
まず、管路の重要度の評価です。病院、学校、避難所など重要施設への給水ルートは最優先で保全すべきです。また、代替ルートの有無も重要な判断材料となります。今回の沖縄の事例が示すように、代替ルートがあっても同時に機能不全に陥る可能性を考慮しなければなりません。
次に、管路の劣化状況を科学的に把握することです。目視点検だけでなく、管内カメラ調査、音響調査、水質検査など、複数の手法を組み合わせて劣化の程度を客観的に評価します。特に、埋設されて見えない部分の管路については、ICT技術を活用した非破壊検査の導入が効果的です。
さらに、過去の漏水・破損事故のデータ分析も欠かせません。どの地域、どの種類の管路で事故が多発しているのか、データに基づいた予防保全策を立案することが重要です。
段階的更新計画の立案
すべての老朽管を一度に更新することは、財政的にも現実的ではありません。したがって、中長期的な視点で段階的な更新計画を立案することが必要です。
効果的な更新計画には、以下の要素が含まれるべきです。
第一に、向こう10年、20年、30年といった複数の時間軸での更新目標を設定することです。短期的には緊急性の高い区間を集中的に更新し、中長期的にはネットワーク全体の健全性を確保する計画が求められます。
第二に、予算の平準化です。特定の年度に更新工事が集中すると、財政負担が重くなるだけでなく、工事業者の確保も困難になります。年度ごとの予算を平準化し、継続的な更新を実現する計画が理想的です。
第三に、他のインフラ整備との連携です。道路の舗装工事や下水道工事と同時に水道管の更新を行えば、工事費用の削減と住民への影響の最小化が図れます。自治体内の各部局や、国・県との緊密な連携が不可欠です。
| 更新計画の時間軸 | 対象管路 | 目標 |
|---|---|---|
| 短期(1-5年) | 事故リスクの高い基幹管路 | 緊急性の高い区間の100%更新 |
| 中期(6-15年) | 耐用年数超過管路 | 重要度に応じて優先的更新 |
| 長期(16-30年) | その他の管路 | ネットワーク全体の健全化 |
技術者育成と体制整備
水道インフラの維持管理には、高度な専門知識と技術が必要です。しかし、多くの自治体で技術者の高齢化と人材不足が深刻化しています。
この問題に対処するため、組織内での計画的な技術者育成が急務となっています。ベテラン技術者から若手への技術継承を組織的に進めるとともに、外部研修や資格取得支援制度を充実させることが重要です。
また、小規模自治体では独自に十分な技術者を確保することが困難な場合もあります。そのような場合は、広域での技術者の共同確保や、民間事業者との連携強化も選択肢となります。ただし、外部委託に頼りすぎると、自治体内部にノウハウが蓄積されないというリスクもあるため、バランスの取れた体制構築が求められます。
特に重要なのは、緊急時対応の訓練です。今回の沖縄の事例では、迅速な代替ルートの確保が断水期間の短縮につながりました。定期的な訓練を通じて、緊急時の判断力と対応力を組織全体で高めておくことが必要です。
自治体向け研修による意識改革
水道管老朽化問題への対応は、技術的な課題だけでなく、組織全体の意識改革が鍵を握ります。特に企業や自治体の管理部門においては、インフラ保全の重要性を深く理解し、長期的視点で予算配分を行う必要があります。
効果的な企業内研修プログラムには、以下の要素を盛り込むべきです。
まず、経営層向けには、インフラ老朽化がもたらす事業継続リスクとその経済的影響について、具体的な事例を用いた研修を実施します。今回の沖縄の事例のように、一度大規模な事故が発生すれば、復旧費用だけでなく、社会的信用の失墜、訴訟リスク、経済活動の停止など、計り知れない損失が発生することを認識してもらう必要があります。
中間管理職向けには、予防保全と事後対応のコスト比較、リスクマネジメントの手法、効率的な予算執行の方法などを学ぶ研修が有効です。「壊れてから直す」事後保全から「壊れる前に対策する」予防保全への意識転換を図ることが重要です。
現場担当者向けには、最新の点検技術、異常の早期発見方法、緊急時対応手順などの実践的な研修を定期的に実施します。また、他の自治体や企業で発生した事故事例を共有し、「自分たちの組織でも起こりうる」という当事者意識を持たせることが大切です。
さらに、研修は一度きりではなく、継続的に実施することで、組織文化として定着させる必要があります。年に一度の定期研修に加え、新しい技術や制度の導入時、事故事例が発生した際などには、適宜臨時研修を開催し、常に最新の知識と意識を保つことが求められます。
研修の効果を高めるためには、座学だけでなく、実際の現場視察、シミュレーション訓練、グループディスカッションなど、多様な手法を組み合わせることが効果的です。特に、管路の実物を見せながらの説明や、過去の事故現場の写真・映像を用いた研修は、参加者の理解と記憶に残りやすく、高い効果が期待できます。
⇒自治体向けWEB研修
上下水道事業の業務効率化 ~業務の効率化と今後の維持管理手法~(嘉浩備前市 市長公室 備前焼振興課 課長補佐)
住民・利用者とのコミュニケーション
情報開示と理解促進
水道料金の値上げや工事に伴う通行規制など、インフラ更新には住民の理解と協力が不可欠です。しかし、多くの住民にとって、地下に埋まった水道管の状態は「見えない問題」であり、緊急性を実感しにくいのが現実です。
効果的なコミュニケーションのためには、まず情報の「見える化」が重要です。自治体のウェブサイトや広報誌で、管路の老朽化状況を地図上に示したり、更新計画の進捗状況を定期的に公開したりすることで、住民の関心を高めることができます。
また、住民向けの説明会やワークショップを開催し、双方向のコミュニケーションの場を設けることも効果的です。単に情報を一方的に伝えるのではなく、住民の疑問や不安に丁寧に答え、対話を重ねることで、信頼関係を構築することができます。
今回の沖縄の事例を教訓として、「このような事態が自分たちの地域でも起こりうる」ということを、具体的な事例とともに伝えることで、住民の理解は深まります。危機感を共有することが、協力体制の構築につながるのです。
緊急時の情報発信体制

大規模な断水が発生した際、最も重要なのは迅速で正確な情報発信です。沖縄県の事例では、SNS、ウェブサイト、防災無線など、複数のチャネルを通じて情報が発信されましたが、一部では情報が錯綜し、混乱を招いた面もありました。
平時から、緊急時の情報発信体制を整備しておくことが重要です。具体的には、発信する情報の内容と優先順位、担当部署と責任者、使用する媒体とその使い分けなどを、マニュアルとして明文化しておくべきです。
また、住民への個別連絡が必要な場合に備え、連絡先リストの整備と更新も欠かせません。特に、高齢者や障害者など、情報収集が困難な方々への配慮も必要です。
今後の展望と課題
国の支援制度と財政措置
水道インフラの更新には莫大な費用がかかります。厚生労働省の試算によると、今後必要となる更新費用は年間約1.5兆円とされています。しかし、多くの自治体、特に人口減少が進む地方自治体では、独自の財源だけでこれを賄うことは困難です。
国は、水道施設の更新を支援するため、生活基盤施設耐震化等交付金などの制度を設けています。また、日本政策投資銀行による低利融資制度なども活用できます。しかし、これらの支援制度の認知度はまだ十分とは言えず、制度を活用しきれていない自治体も多いのが現状です。
今後は、国による財政支援の拡充とともに、自治体が支援制度を十分に活用できるよう、情報提供や申請支援の体制を強化することが求められます。また、PPP(官民連携)やコンセッション方式など、民間資金やノウハウを活用した新しいインフラ整備の手法についても、積極的に検討していく必要があります。
デジタル技術の活用
水道インフラの維持管理において、デジタル技術の活用が大きな可能性を秘めています。
IoTセンサーを管路に設置することで、水圧、水質、流量などをリアルタイムで監視し、異常の早期発見が可能になります。AIによるデータ分析を組み合わせれば、将来的な破損リスクの予測も可能になるでしょう。
また、ドローンや管内カメラロボットなどを活用した点検の効率化も進んでいます。人が入れない場所や危険な場所での点検作業を、これらの技術で代替することで、安全性の向上とコスト削減の両立が図れます。
さらに、管路情報のデジタル化とGIS(地理情報システム)との統合により、更新計画の立案や工事管理の効率化も期待できます。どこにどのような管路があり、いつ敷設され、どのような点検履歴があるのか、すべての情報を一元管理することで、より戦略的な維持管理が可能になります。
ただし、デジタル技術の導入には初期投資が必要であり、また技術を扱える人材の育成も課題となります。特に小規模自治体では、単独での導入が困難な場合もあるため、広域での共同導入や、段階的な導入計画の検討が必要です。
まとめ
2025年11月24日に発生した沖縄県の大規模断水事故は、水道管老朽化がもたらす深刻なリスクを私たちに突きつけました。58年前に敷設された導水管の破裂により、37万世帯が断水し、県民生活や経済活動に甚大な影響が及んだこの事例は、全国の自治体と企業にとって重要な教訓となります。
老朽化した水道インフラは、全国各地に存在します。法定耐用年数を超えた管路の割合は約20%に達し、更新のペースは需要に追いついていません。しかし、財政難や技術者不足など、更新を阻む課題も山積しています。
この問題を解決するためには、正確なリスク評価に基づく優先順位付け、中長期的な更新計画の立案、技術者の計画的育成、そして何より、組織全体の意識改革が不可欠です。特に企業内研修を徹底することで、経営層から現場担当者まで、すべての関係者がインフラ保全の重要性を理解し、予防保全の文化を組織に根付かせることが、将来的な大規模事故の防止につながります。
また、住民とのコミュニケーションを密にし、理解と協力を得ながら更新を進めることも重要です。国の支援制度の活用やデジタル技術の導入など、利用可能なあらゆる手段を検討し、実行に移していく必要があります。
沖縄県の事例を「対岸の火事」とせず、自らの組織や地域の問題として捉え、今すぐ行動を起こすことが求められています。蛇口をひねれば水が出る、その当たり前の日常を守るため、私たち一人ひとりができることから始めましょう。
あなたの組織では、水道インフラの点検と更新計画は適切に行われていますか。今こそ、見直しの時です。
