【大学職員向け】世界のSTEM/STEAM動向と高等教育の未来
「大学改革」「教学マネジメント」「リカレント教育」。日々の業務の中でこうしたキーワードに触れる機会が増えているのではないでしょうか。18歳人口の減少やグローバル化の進展に伴い、日本の大学は今、大きな転換期を迎えています。
これまで大学職員には、正確で迅速な事務処理能力が主に求められてきました。しかし、これからの時代に求められるのは、教員と協働して教育の質を高め、大学の経営課題を解決していく「高度な専門性」と「広い視野」です。
本記事では、現在世界中の高等教育機関で重視されている「STEM/STEAM教育」の潮流を紐解きながら、これからの大学職員が押さえておくべき世界の動向と、求められる視点について解説します。
目次
なぜ今、世界中で「高等教育の再定義」が進むのか
大学を取り巻く環境の変化は、日本国内だけの問題ではありません。世界規模で産業構造が変化する中、各国の高等教育機関は「教育の質」と「役割」の再定義を迫られています。
欧米・アジア諸国の動向と日本
第4次産業革命(Industry 4.0)の到来により、AIやIoT、ビッグデータが社会の基盤となりました。これに伴い、世界各国は国家戦略として教育への投資を加速させています。特に注目すべきは、科学技術(STEM)分野への注力と、それを社会実装するための創造性教育(STEAM)へのシフトです。
世界と日本の動向を比較すると、以下のような特徴が見えてきます。
| 地域 | 動向の特徴 | 高等教育への影響 |
|---|---|---|
| 米国 | STEM教育を国家の競争力維持の要と位置づけ、巨額の予算を投入。 | 産学連携による実践的なカリキュラム開発、STEAM(Artsの統合)への早期移行。 |
| 欧州 | OECD等が主導し、コンピテンシー(資質・能力)重視の教育へ転換。 | ボローニャ・プロセスによる質の保証、流動性の確保。市民性教育の重視。 |
| アジア | シンガポールや中国など、国家主導でトップダウンの教育改革を推進。 | エリート層へのSTEM教育強化、海外大学との積極的な連携。 |
| 日本 | 「Society 5.0」に向けた人材育成、文理分断からの脱却を模索。 | 数理・データサイエンス・AI教育の全学展開、学部再編の動き。 |
このように、世界は「知識を教える場」から「新しい価値を生み出す人材を育てる場」へと、大学の機能を大きくシフトさせています。日本の大学もこの潮流の中にあり、文部科学省が進める数々の政策も、こうした世界的な背景とリンクしています。
職員として学内の改革に関わる際、こうした「世界地図」を頭の中に描けているかどうかで、施策への理解度や企画の説得力は大きく変わってくるはずです
大学教育の「価値」の変化
かつては「大学で学位を取得すること」自体に大きな価値がありました。しかし、技術革新のスピードが加速する現代において、学生時代に学んだ知識だけで一生を乗り切ることは困難になっています。
これからの高等教育に求められる価値は、以下のように変化しています。
- 学歴(Schooling)から学習歴(Learning)へ
どこの大学を出たかよりも、「何を学び、何ができるようになったか」という学修成果(アウトカム)が重視される。 - ワンショットの教育から生涯学習へ
社会人になっても学び続けるための「リカレント教育」の拠点としての機能が求められる。 - 専門知識の深掘りから「統合知」へ
特定の分野だけでなく、複数の領域を横断して課題を解決する力が求められる。
大学職員には、既存のカリキュラムや支援体制を前例踏襲で守るだけでなく、こうした社会の要請に合わせて「大学が提供する価値」をどうアップデートしていくかという視点が求められています。
「文系・理系」の枠組みを超える意味

学内の会議やFD・SD研修などで「文理融合」や「STEAM教育」という言葉を耳にする機会も多いでしょう。なぜ今、伝統的な「文系・理系」の区分を取り払う必要があるのでしょうか。
イノベーション創出のメカニズム
STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育の重要性は以前から叫ばれてきましたが、近年そこにA(Arts)を加えた「STEAM教育」が世界的なスタンダードになりつつあります。
この背景には、イノベーション創出のメカニズムの変化があります。技術的な課題解決(STEM)だけでは、真に人間にとって価値あるサービスや製品を生み出すことが難しくなっているのです。
例えば、自動運転技術を社会に導入する際、技術的な安全性(STEM)はもちろん重要ですが、「事故が起きた際の法的・倫理的責任はどうなるか」「人はAIに運転を任せて安心できるか」といった問い(Arts)に答えられなければ、社会実装は進みません。
大学において、理工系の学生にリベラルアーツを学ばせたり、人文社会系の学生にデータサイエンスを必修化したりする動きは、単なる「教養の幅広げ」ではなく、イノベーションを起こすための「知の統合」を目指しているのです。
リベラルアーツ教育の復権と進化
「Arts」には、芸術だけでなく、哲学、歴史、文学などのリベラルアーツ(教養)全般が含まれます。正解のない複雑な課題に向き合う力が求められる今、リベラルアーツの価値が見直されています。
海外のトップ大学では、専門教育に入る前に徹底したリベラルアーツ教育を行ったり、異なる専門分野の学生がチームを組んで課題解決に取り組むPBL(Project Based Learning)を導入したりしています。
日本の大学においても、学部改組や全学共通教育の改革が進んでいますが、「なぜそれが必要なのか」「世界ではどのような教育が行われているのか」を深く理解しておくことは、カリキュラム編成や学生支援に携わる職員にとって非常に重要です。
世界の高等教育機関が具体的にどのような改革を進めているのか、その詳細や背景をもっと深く知りたいとお考えではないでしょうか。
断片的な情報を追うだけでなく、専門家の解説で体系的に知識を整理することは、日々の業務の背景を深く理解し、自信を持って仕事に取り組むためのヒントになります。
大学の「これから」を考える
「世界は今、どう動いているのか?」 日々の業務に追われる中で見落としがちな最新動向を、効率よくインプット。SDや自己研鑽の一環として、これからの大学職員に必須の「世界標準の教養」を身につけましょう。
講座の詳細を見る変化の波を乗りこなす「職員力」
大学改革を進める主役は教員だけではありません。教学マネジメントやガバナンス改革が叫ばれる中、事務職員にも「高度専門職」としての役割が期待されています。
教員と対等に議論するための基礎教養
「教育の中身は先生の領域だから」と一線を引いてしまうことは簡単です。しかし、シラバスの作成支援、カリキュラムの再編、学修成果の可視化といった業務において、教員と対等に議論し、協働するためには「共通言語」が必要です。
その共通言語の一つが、今回取り上げたような「世界の教育動向」や「STEM/STEAM」といったキーワードです。
- 企画・立案業務において
「世界ではこういう事例がある」というエビデンスに基づいた提案ができる。 - 教務・学生支援業務において
学生に対し、なぜこの科目を学ぶ必要があるのか、社会でどう役立つのかを説得力を持って説明できる。 - IR(Institutional Research)業務において
収集したデータを分析する際、世界的な指標(OECDなど)と比較・検討する視点を持てる。
大学職員が世界のトレンドを知ることは、単なる知識の蓄積にとどまりません。それは、自学の強みや課題を客観的に捉え直し、教職協働(教員と職員の協働)を実質化するための強力な武器となります。
日々の業務に追われていると、どうしても目の前の事務処理に意識が向きがちですが、SD(Staff Development)の一環として、あるいは自己研鑽として、こうしたマクロな視点を取り入れる時間を設けることが、プロフェッショナルとしての成長につながります。
まとめ
大学を取り巻く環境は激変しており、STEM/STEAM教育へのシフトは一過性のブームではなく、不可逆的な世界の潮流です。この変化の本質を理解することは、大学職員としてのキャリアをより豊かなものにするだけでなく、自学の教育力を高め、学生の未来を支えることに直結します。
まずは世界の動きを知り、視座を高めることから始めてみてはいかがでしょうか。プロフェッショナルとしての広い視野は、あなたの業務に新たな気づきをもたらしてくれるはずです。

