水道管の老朽化はなぜ止まらない?アセット×ストック連携が鍵
KEYWORDS 自治体
近年、全国各地で水道管の破裂や道路の陥没といったインフラ事故のニュースを耳にする機会が増えました。高度経済成長期に一斉に整備された公共施設やインフラ設備が、今まさに更新時期を迎えています。しかし、人口減少による税収・使用料収入の減少に直面する多くの自治体や組織にとって、すべての施設を新しく作り直すことは現実的ではありません。
「壊れてから直す」という従来の手法が限界を迎える中、私たちには何ができるのでしょうか。本記事では、公共施設運営の要となる「アセットマネジメント」と「ストックマネジメント」の考え方を整理し、持続可能なインフラ維持のための解決策を解説します。
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目次
- 公共施設・インフラが直面する「老朽化」と「財政難」のジレンマ
- 似て非なる「アセットマネジメント」と「ストックマネジメント」の違い
- 経験と勘からの脱却ーデータに基づく「予防保全」への転換
- 計画倒れを防ぎ、実効性のある体制を構築するために
- まとめ
公共施設・インフラが直面する「老朽化」と「財政難」のジレンマ

施設の老朽化と財源不足という「二重苦」に直面する日本の公共インフラ。ここでは、従来の維持管理手法がなぜ限界を迎え、新たな考え方が必要とされているのか、その背景を整理します。
「壊れてから直す」維持管理のみでは破綻する
これまでの公共施設運営は、不具合が生じてから対処する「事後保全」や、日常的な「維持管理」が中心でした。しかし、施設の老朽化が進むにつれ、維持管理コストは増加の一途をたどります。 このままの体制を続けると、以下のような深刻な事態を招く恐れがあります。
- 財政負担の増大: 老朽化に伴い修繕費が膨れ上がり、将来の財政運営に大きな負担となる。
- 更新投資の減少: 人口減少に伴う収入減により、必要な更新投資ができず、施設の急速な老朽化が進む。
- 突発的な事故リスク: 計画的な更新ができず、断水や陥没などの事故リスクが高まる。
単なる「延命」ではなく、将来を見据えた計画的な「更新・再構築」へと舵を切る必要があります。
公共施設を「経営資源」と捉えるファシリティマネジメント
そこで重要になるのが、「ファシリティマネジメント」という考え方です。これは、公共施設を単なる「建物・設備」ではなく、行政運営における「経営資源」として捉え直すものです。 企業が保有資産を戦略的に活用するように、公共施設についても経営戦略的視点から総合的に企画・管理・活用することが求められています。維持管理部門だけでなく、財政部門や企画部門も巻き込んだ組織横断的なマネジメントが必要とされているのです。
似て非なる「アセットマネジメント」と「ストックマネジメント」の違い
ファシリティマネジメントの実践において頻出する「アセットマネジメント」と「ストックマネジメント」。この2つは混同されがちですが、視点や目的が明確に異なります。実務ではこの違いを理解し、両輪として回すことが重要です。
アセットマネジメント(AM):中長期的な「お金」と「全体」の視点
アセットマネジメントとは、主に「資金(カネ)」と「全体」に焦点を当てたマクロ(巨視的)な視点での管理手法です。 水道事業などを例に挙げると、施設のライフサイクル全体にわたって効率的かつ効果的に管理運営するための実践活動を指します。
主な特徴は以下の通りです
- 中長期的な視点: 少なくとも30〜40年程度先までの更新需要と財政収支を見通します。
- 投資の平準化: 更新時期が集中しないよう予算を平準化(ピークカット)し、財政負担を軽減します。
- 財源の裏付け: 将来の更新需要に対応した資金確保策を具体化します。
ストックマネジメント(SM):個別施設の「状態」と「リスク」の視点
一方、ストックマネジメントは、ミクロ(微視的)な視点での管理手法と言えます。個別の「施設(モノ)」の状態を詳細に把握し、健全度を診断することに重きを置きます。 膨大な施設に対して一律に更新を行うのではなく、リスク評価に基づいて優先順位を決定します。「どの施設が危険か」「どこから直すべきか」という技術的根拠を明確にし、長寿命化対策や効率的な改築計画を立案・実行します。
【アセットマネジメントとストックマネジメントの比較】
| 項目 | アセットマネジメント(マクロ) | ストックマネジメント(ミクロ) |
|---|---|---|
| 視点 | 全資産、全体費用、全体リスク | 個別資産、点検・診断、劣化予測 |
| 対象 | カネ(資産)、人、サービス水準 | モノ(施設資産)、データベース |
| 担当部署 | 予算・企画・計画担当部署 | 建設・維持管理担当部署 |
| 主な目的 | 予算の平準化、中長期の収支見直し | リスク評価に基づく優先順位付け、長寿命化 |
| 役割 | 政策・方針決定、投資計画策定 | 健全度評価、対策案の選択、補修実施 |
精度を高めるには「マクロ」と「ミクロ」の連携が不可欠
アセットマネジメント(予算・計画)とストックマネジメント(建設・維持管理)は、切り離して考えることはできません。マクロな予算計画の精度を高めるためには、ミクロな現場の点検データが不可欠だからです。 全体予算の枠組みの中で、現場のリスク評価に基づいた最適な投資配分を行う。この「マクロとミクロの連携」こそが、効果的なファシリティマネジメントの鍵となります。
人口減少による収入減や施設の老朽化といった課題に対し、
経営基盤の強化に必要な知識を体系的に習得します。
- 的確な財政運営に取り組むための地方公営企業会計
- 持続可能な事業継続に向けた料金改定や広域化・共同化
- 公共施設を経営資源として捉える自治体ファシリティマネジメント
- 老朽化対策の要となるアセット・ストックマネジメント
経験と勘からの脱却ーデータに基づく「予防保全」への転換
かつての施設管理は、ベテラン職員の経験や勘に頼る部分が少なくありませんでした。しかし、担当者減少や技術継承の難しさから、属人化を排したデータ駆動型の管理体制への移行が急務です。
「倉庫の紙」になっていないか?維持管理情報のデータベース化
多くの現場で深刻な課題となっているのが、情報の管理方法です。 従来のマネジメントでは、膨大な維持管理情報が「紙ベース」の報告書として記録され、そのまま書庫や倉庫に保管されているケースが多く見られました。
【紙ベース管理の弊害】
- 情報の適切な整理や集計が行われていない。
- 過去のデータの分析が不十分で、効率的な修繕・改築が困難になる。
- 計画策定時に、改めて膨大な資料を整理・調査し直す手間が発生する。
維持管理を起点としたマネジメントサイクルを確立するためには、日々の点検結果、修繕履歴、苦情情報などをデータベース化し、誰もが参照・分析できる環境(維持管理システム等)を整えることが第一歩です。
リスク評価で優先順位をつける「アカウンタビリティ」の重要性
データを蓄積することで、客観的なリスク評価が可能になります。 「なぜこの施設を優先して直すのか」「なぜこれだけの予算が必要なのか」を、住民や議会に対して論理的に説明する責任(アカウンタビリティ)を果たすためにも、数値に基づいた管理計画が求められます。これにより、市民の理解を得ながら、安全性を確保した効率的な運営が可能になります。
計画倒れを防ぎ、実効性のある体制を構築するために
理論や概念は理解できても、実際の現場で計画を策定し、運用していくことは容易ではありません。最後に、この取り組みを一過性のものにせず、継続的なサイクルとして定着させるための「学習」と「人材育成」について解説します。
実務ノウハウを短期間で習得する「eラーニング」の活用
公共施設運営には、財務・会計の知識から、設備の技術的診断、そしてデータ分析まで、多岐にわたる専門知識が必要です 。これらをゼロから独学で習得するには膨大な時間がかかり、日々の業務に追われる担当者にとっては大きな負担となります。
そこでお勧めしたいのが、専門家による体系化された「eラーニング」の活用です。 例えば、金融機関や公会計の実務経験者が講師を務める研修では、アセットマネジメントの基礎から、ストックマネジメントにおける具体的なリスク評価手法、さらにはデータベース構築のポイントまで、実務に即した内容を効率よく学ぶことができます 。 先行事例や標準化されたフローを動画で学ぶことで、試行錯誤の時間を大幅に短縮し、自組織に合った計画策定へスムーズに着手することが可能になります。
誰のためでもない「自らのため」のマネジメントへ
こうした学習を通じて目指すべきは、「国から言われたから作る計画」ではなく、「自らの組織を守るためのマネジメント」への意識改革です 。 まずは第一歩を踏み出し、取り組みを「当たり前(ルーティン)」にしていくこと 。専門的な研修プログラムをうまく活用しながら、組織全体のリテラシーを高めていくことが、持続可能なインフラ運営への近道となります。
まとめ
公共施設の老朽化は待ったなしの課題ですが、適切なマネジメント手法を取り入れることで、リスクを最小限に抑え、コストを最適化することは可能です。 「事後保全」から「予防保全」へ。そして、「管理」から「経営」へ。 この転換を実現するためには、マクロとミクロの視点を持ち、データに基づいて判断できる人材の育成が欠かせません。
日々の業務の中で、少しずつでも仕組みを変えていくことが、10年後、20年後の地域の安全を守ることにつながります。まずは必要な知識を効率的にインプットし、足元のデータ整理から始めてみてはいかがでしょうか。
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