下請法とは?適用対象と禁止行為をわかりやすく整理

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「下請法」という言葉を聞いたことはあっても、その内容をしっかり理解している企業担当者はまだ少なくありません。しかし、実はこの法律、知らなかったでは済まされないほど重要です。なぜなら、違反すれば企業名が公表され、レピュテーションリスクが現実のものとなるからです。
特に製造業や情報サービス業、さらには委託業務が発生するほぼすべての業種にとって、下請法の理解は必須です。企業規模に関わらず、下請事業者との適正な取引関係を保つことは、取引先との信頼関係を維持し、長期的な事業継続を可能にするための基本です。
本記事では、下請法の基本と実務上の留意点をわかりやすく解説し、企業内での法令遵守体制を築くための具体策として、eラーニングの活用方法をご紹介します。
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目次
下請法とは何か
下請法の基本を理解するには、まずその成り立ちや目的を知ることが欠かせません。加えて、どのような取引に適用されるのか、自社が該当するのかを正しく認識することが、法令違反を防ぐ第一歩となります。
制定の背景と役割
下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、1956年に施行された法律で、独占禁止法の補完法として制定されました。背景には、戦後の高度経済成長期に親事業者による下請事業者への不当な取引慣行が横行し、中小企業の健全な発展が妨げられていたという実態があります。
本法は、親事業者が優越的地位を利用して下請事業者に不利益を押し付ける行為を防ぐことを目的とし、取引の公正性を確保するためのルールを明文化しています。特に、公正取引委員会が行政指導を行う点において、民間トラブルの抑止効果も高い法律です。
適用対象と取引の種類
下請法が適用されるかどうかを正しく判断することは、法令順守の出発点です。特に注意すべきなのは、「自社が親事業者にあたるか否か」「対象取引に該当するかどうか」という2つの視点です。資本金の大小や委託内容によって機械的に適用が決まるため、契約の形式や通称では判断できません。
【資本金規模による適用関係の判断】
下請法では、親事業者と下請事業者の資本金規模の差により、法律の適用関係が自動的に定まります。以下が、資本金に基づく適用関係の概要です。
- 製造委託・修理委託
- 親事業者:資本金3億円超
- 下請事業者:資本金3億円以下
- 情報成果物作成委託・役務提供委託
- 親事業者:資本金5,000万円超
- 下請事業者:資本金5,000万円以下
つまり、例えば資本金5億円のIT企業が、資本金3,000万円のソフトウェア会社に業務委託を行う場合、委託内容が情報成果物作成に該当すれば、下請法の適用対象となるのです。
また、親事業者が資本金1,000万円未満であっても、委託先が個人事業主や法人であり、かつ対象取引に該当すれば、親事業者の立場としての義務が発生することがあります。ここが重要な注意点です。
【適用される取引の4類型】
下請法では、対象となる取引を以下の4つに分類しています。それぞれの実務イメージとともに解説します。
- 製造委託取引
物品の製造を他社に依頼する取引です。たとえば、自社ブランド製品をOEM先に製造させる場合や、設計図を提供して加工を依頼するケースがこれに該当します。 - 修理委託取引
製品や設備などの修理・改造を、専門業者に委託する取引です。家電メーカーが修理業務を地場業者に依頼するケースなどがこれにあたります。 - 情報成果物作成委託取引
ソフトウェアの開発、ウェブサイト構築、設計図や映像、マニュアル作成など、形のある情報コンテンツを作る業務の委託です。完成品が成果物として納品される契約が対象です。 - 役務提供委託取引
人力や作業によるサービス提供を外注するものです。コールセンター業務、配送・物流、清掃、施設管理など、成果物を伴わない労務提供が該当します。
このように、「成果物があるか」「物品の移動が伴うか」「役務が主体か」といった要素が、取引類型を判断する基準になります。
なお、契約書の名称が「業務委託契約」「準委任契約」などであっても、実態として下請法の対象行為に該当すれば法律の適用を受けます。契約類型にかかわらず、実務の内容で判断される点に注意が必要です。
企業が押さえるべき基本義務

下請法は、単に「やってはいけないこと」を列挙するだけでなく、「必ず守らなければならない義務」も具体的に定めています。義務を怠ることが、結果として違反やトラブルに発展する要因になります。
4つの遵守義務
まず押さえておきたいのが、「書面交付義務」「支払期日の設定義務」「記録保存義務」「遅延利息の支払義務」の4つです。
- 書面交付義務
親事業者は、発注時に契約条件を記載した書面を速やかに下請事業者に交付しなければなりません。メール等の電子的方法も可能ですが、下請事業者の事前同意が必要です。内容には、取引日、納品期日、委託内容、支払条件などが含まれます。 - 支払期日の設定義務
製品や役務を受け取った日から60日以内に支払期日を設定しなければなりません。たとえ双方で合意があっても、60日を超える設定は認められません。 - 記録保存義務
契約に関する書類や電子データを2年間保存する必要があります。これは後日の監査やトラブル時に証拠となるものであり、形式に関わらず記録を残すことが求められます。 - 遅延利息の支払義務
支払が遅れた場合、14.6%の高率な遅延利息を支払わなければなりません。民法の法定利率(3%)と比べて非常に高く、注意が必要です。
これらの義務を確実に履行することが、下請法違反を未然に防ぐ鍵です。
書面記載の注意点
下請法における「書面の交付」は単なる発注書とは異なります。記載内容には以下のような要素が求められ、詳細かつ正確に記載する必要があります。
- 親・下請事業者の名称と取引日
- 委託内容、納品期日、場所
- 下請代金の額と支払方法・支払期日
- 特殊支払手段(手形、一括決済、電子記録債権など)の情報
仮に契約時点で詳細が未定であったとしても、「正当な理由」があれば一時的に未記載とし、後日補充書面を交付することで対応可能です。
11の禁止行為と違反リスク
下請法では、親事業者による不当な取引慣行を防ぐため、法律上「禁止行為」として明確に定められた11の行為があります。これらはいずれも、下請事業者の利益を不当に害するものとされ、違反があれば勧告・公表・罰則の対象になります。
下請法における11の禁止行為
分類 | 禁止行為 |
---|---|
不当な取引拒否 | 1. 受領拒否 2. 下請代金の支払遅延 3. 下請代金の減額 4. 返品 |
不当な条件設定 | 5. 買いたたき 6. 購入・利用強制 7. 報復措置 |
不当な金銭処理 | 8. 原材料等の早期決済 9. 割引困難な手形の交付 |
不当な要求 | 10. 経済上の利益の提供要請 11. 給付内容の不当な変更・やり直し |
典型的な違反行為の具体例
- 受領拒否
設計変更や販売計画の変更を理由に、完成した製品や成果物を受け取らない行為は典型的な違反です。下請事業者に責任がない限り、発注した以上は受領義務が発生します。
- 下請代金の減額
「協力金」「販促費」「リベート」などの名目で、発注後に代金を一方的に減額することは、多くの業界で見られる違反パターンです。下請事業者が明確に合意していても、実質的に強制であれば違反とされる可能性があります。
- 買いたたき
市価より著しく低い金額を提示し、それを条件に発注を行う行為も下請法違反です。「これ以上の価格では発注できない」といった一方的な提示は、優越的地位の濫用とみなされるおそれがあります。
- 報復措置
下請事業者が不当な取引を通報したことで、発注数量を減らされたり、契約を打ち切られたりするケースも禁止されています。内部告発や通報を保護する意味でも、特に厳しく監視されている項目です。
- 不当な給付内容のやり直し
明確な不備がないにもかかわらず、「上司の意向が変わった」「社内方針が変更された」などを理由に、成果物のやり直しを命じる行為も違反になります。
eラーニングによる社内研修のすすめ

下請法の遵守を徹底するには、組織全体での意識改革が必要です。特に、現場の担当者が誤った認識を持ったまま契約を進めてしまうことが、違反の温床となります。
eラーニング導入のメリットと活用方法
eラーニングを導入することで、下請法の教育を効率的に全社展開できます。主なメリットと活用方法は以下のとおりです。
【導入メリット】
- 全社員に統一された内容を提供でき、知識のバラつきを防止
- 受講履歴を管理でき、監査や社内報告にも活用可能
- 法改正時の教材更新が容易で、常に最新内容に対応可能
【活用方法の例】
- 新入社員・管理職向けの階層別カリキュラムを設定
- 違反事例や実務に即したケーススタディを教材に反映
- 年1回の定期受講や理解度テストによる知識定着を促進
eラーニングは、継続的なコンプライアンス体制の基盤として機能します。手間やコストを抑えつつ、確実な法令遵守を図るうえで、非常に効果的な施策といえるでしょう。
まとめ
下請法は、単なる取引ルールではなく、企業の信頼性と取引倫理を問う法制度です。企業規模や業種に関係なく、委託を行う事業者すべてが遵守すべき内容であり、違反した場合の代償は大きなものとなります。
社内の理解不足が原因で違反が起こらないよう、法務部門や管理部門だけでなく、営業や調達、現場担当者に至るまで、全社的な教育体制が必要です。その最適解として、eラーニングの導入は大きな効果を発揮します。
今こそ、自社の取引のあり方を見直し、リスクを最小限にするための第一歩を踏み出しましょう。
下請法の基本と実務上の留意点を学ぶ
下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるために制定された法律です。親事業者が義務や禁止事項・下請法に違反すると、勧告や公表、課徴金や罰金などのペナルティがあります。この研修では、親事業者が対応すべき4つの義務と11の禁止行為をわかりやすく解説します。「知らなかった」では済まされない下請法の知識をしっかりと身につけることができます。
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