ワークライフバランスの罠?意欲ある社員を活かす「攻め」の労務術

ワークライフバランスと労務コンプライアンス

「もっと仕事に没頭して成果を出したい」「成長のために今は時間を惜しみたくない」。そう願う意欲的な社員に対し、会社が一律に「残業禁止」「早く帰れ」とブレーキをかけることは、果たして正解でしょうか?

近年、ワークライフバランス(WLB)が叫ばれる中で、画一的な時短推進がかえって社員のモチベーションを下げ、優秀な人材の離職を招く「逆説的な事態」が起きています。人的資本経営の観点からも、個人の意欲(エンゲージメント)を削ぐことは損失です。

しかし、経営者・人事として無視できないのが「労務コンプライアンス」です。本人が望んでいれば何をしても良いわけではありません。本記事では、「働きたい」という多様な価値観を尊重しながら、企業が法的に安全な環境をどう整備すべきか、その最適解を紐解きます。

目次

「本人の希望」なら残業はOK? 精神論で語れない法務リスク

「本人が好きでやっているから大丈夫」「将来のために頑張りたいと言っている」。 現場ではこのような言葉が飛び交いますが、法的な観点では、これらは企業を守る免罪符にはなりません。むしろ、意欲ある社員こそが「隠れリスク」になり得ることを理解する必要があります。

労働基準法と安全衛生法が定める「限界線」

講座の「対象となる主な労働関連法令」でも触れられていますが、企業には安全配慮義務があります。たとえ社員からの申し出があったとしても、労働基準法や労働安全衛生法で定められた上限を超えて働かせることはできません。

特に注意すべきは以下の2点です。

1. 客観的な労働時間の把握義務

「自己研鑽」や「持ち帰り残業」であっても、それに上司の明示・黙示の指示(黙認を含む)があったとみなされれば、労働時間としてカウントされます。これは未払い残業代のリスクだけでなく、長時間労働による健康障害が発生した際の損害賠償リスクに直結します。

2. メンタルヘルスと過重労働

「働きたい」という高揚感は、時に疲労を麻痺させます(過活動状態)。本人が元気そうに見えても、突然のメンタル不調や脳・心臓疾患(過労死ライン)に至るケースは後を絶ちません。この時、企業が「本人の希望だった」と主張しても、管理責任は免れません

「意欲」と「リスク」のジレンマを整理する

「働かせたい」わけではなく「活躍させたい」。しかし「守らなければならない」。このジレンマを解消するには、まず現状のリスクを可視化することが重要です。

以下に、意欲的な社員に対して企業が陥りがちな対応と、それに潜むリスクを整理しました。

「働きたい社員」への対応別リスク比較表
放置・黙認型 状態:「自主性」という名の下、時間管理を本人任せにする。
リスク安全配慮義務違反、隠れ残業の常態化
結果として、健康被害が出た際に「会社は止めた」という言い訳が通用せず、巨額の賠償責任や社会的信用の失墜(ブラック企業認定)を招く。
一律規制型 状態:PC強制シャットダウンや残業禁止を強行する。
リスクモチベーション低下、持ち帰り残業の誘発
「働きたい」意欲の行き場がなくなり、優秀層が離職するか、見えない場所(自宅やカフェ)での違法労働へ逃げ込む。
適法管理型
(推奨)
状態:法の上限(36協定・特別条項)内でメリハリをつけて働かせる。
成果高エンゲージメント、持続的な成長
「ここまでなら全力で走っていい」という明確なガードレールを示すことで、社員は安心して仕事に没頭でき、会社はコンプライアンスを守れる。

このように、「働きたい」を叶えるためには、むしろ厳格な「労務コンプライアンス(ルールの運用)」が必要なのです。ルールなき長時間労働はただの「暴走」ですが、ルール内のハードワークは「戦略的な投資」になり得ます。

エンゲージメントを高めるための「正しいルールの運用」

「働きたい」という社員の熱意を、ブラック労働ではなく「高いエンゲージメント」として昇華させるには、会社側が曖昧さを排除し、透明性のあるルール運用を行う必要があります。

重要なのは、「ここまでなら安全に全力疾走できる」というコースを整備することです。

現状を「見える化」して合意形成を図る

意欲的な社員とのトラブルは、多くの場合「認識のズレ」から生じます。上司は「無理しないで」と言ったつもりでも、部下は「期待に応えなきゃ(=もっとやれという意味だ)」と解釈してしまうケースです。

これを防ぐには、感覚的なマネジメントではなく、客観的なデータに基づいた対話が不可欠です。

Step.1

労務リスクチェックリストの活用

自社の就業規則や36協定の特別条項がどうなっているか、現場レベルで正しく理解できていますか?まずは「何が違反になるか」の境界線を明確にします。

Step.2

エンゲージメントサーベイとの連動

「長時間労働になっている部署」と「エンゲージメントが高い/低い部署」の相関を見ます。単に労働時間が長いだけでなく、「やらされ仕事」になっているのか、「自律的に働いている」のかを見極めることが、人的資本経営の第一歩です。

本研修講座のPoint03でも触れられていますが、こうしたツールを用いて「自社の現状を見える化」し、組織ごとに異なる課題(働きすぎなのか、制度が硬直的なのか)へ的確に対処することが求められます。

「休むこと」も業務命令という意識改革

バリバリ働きたい社員に対し、「休むこともプロの仕事(パフォーマンス維持義務)」であるとロジカルに説明できるかが鍵です。

「法律だからダメ」と頭ごなしに否定するのではなく、「長く高いパフォーマンスを発揮してほしいから、法的なインターバル(休息)が必要だ」と伝える。このコミュニケーションこそが、コンプライアンス(法令遵守)と人的資本(個人の尊重)を両立させるマネジメントです。

管理職・人事が今すぐ学ぶべきこと

「意欲ある社員を守りながら活かす」。この難易度の高いミッションを遂行するためには、管理職や人事担当者が正しい法知識という武器を持つ必要があります。 精神論や過去の経験則だけでは、現代の複雑な労務リスクには対応できません。

体系的な知識を効率よくインプットする

多忙な実務の合間に、独学で法改正を追い続けるのは至難の業です。そこで活用したいのが、要点を絞って体系化されたeラーニングです。

今回ご紹介する「人的資本経営と労務コンプライアンス」講座は、まさに「攻め」と「守り」の両面を学ぶために設計されています。

【この講座で学べる実務のポイント】

守り
コンプライアンスの全体像

「労働基準法」「労働安全衛生法」といった基礎法令から、ハラスメントやメンタルヘルスリスクまで、企業が直面するリスクを網羅的に把握できます。

チャプター:対象となる主な労働関連法令
攻め
最新トレンドへの対応

法改正の動向や、人的資本可視化指針といった最新情報をキャッチアップ。変化する社会要請に合わせて、自社の制度が古くなっていないかをチェックできます。

チャプター:労務コンプライアンスをめぐる情報を押さえる
運用
現場での実践力

単なる法律の暗記ではなく、多様な雇用形態や採用選考、外国人労働者の雇用など、具体的なシーンでの判断基準を養います。

チャプター:押さえておくべき重要項目

理論と実務の橋渡しを重視したカリキュラム(Point01)により、学んだその日から「部下への声かけ」や「労務判断」に自信が持てるようになるでしょう。

まとめ

「ワークライフバランス」とは、単に労働時間を減らすことではありません。社員一人ひとりが健康かつ適法な環境の中で、自らの能力を最大限に発揮できる状態(調和)を作ることです。

「もっと働きたい」という貴重な意欲を、無知によるコンプライアンス違反で潰してはなりません。また、リスクを恐れて一律に抑制することも、企業の成長を止めることになります。

正しい法知識は、企業を守る盾であると同時に、社員が安心して全力で走るための舗装された道路でもあります。まずは管理者である皆様が、人的資本経営と労務コンプライアンスの正しい関係性を学び、「攻めの労務管理」へと舵を切ってみてはいかがでしょうか。