アルムナイ採用――退職で関係を終わらせない選択肢

アルムナイ採用

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近年、日本の労働市場はかつてないほど人材不足に直面しています。リクルートワークス研究所の調査によれば、2030年には約341万人、2040年には1100万人もの労働供給不足が予測されています。新卒採用市場はコロナ以前の水準に戻ったものの、中小企業や専門性の高い業種では依然として採用競争が激化しており、思うように人材を確保できない状況が続いています。

会計業界も例外ではありません。専門知識を持つ人材の確保が難しい上、転職市場における有資格者や実務経験者の流動性は高くなく、従来型の新卒採用や転職サイト頼みの手法では限界が見えてきています。

会計事務所にとって人材不足は、単なる採用の難しさにとどまりません。繁忙期に人材が不足すると既存社員の負担が増え、離職率がさらに高まるという悪循環を生み出します。また、顧客対応の品質が低下すれば、事務所全体の信頼性やブランド価値にも影響を及ぼします。こうした課題を背景に、新しい採用手法として「アルムナイ採用」が注目されています。

労働供給不足の推移(予測)
労働供給不足(万人) 0 300 600 900 1200 2025 2030 2040 200 341 1100

目次

アルムナイ採用とは何か

アルムナイの定義と仕組み

「アルムナイ(Alumni)」とは本来「卒業生」や「同窓生」を意味します。採用の文脈では、自社を一度退職した社員(OB・OG)を指し、彼らを再び雇用する仕組みを「アルムナイ採用」と呼びます。一般的には「出戻り採用」とも言われる手法です。

この手法が注目される背景には、「即戦力性」と「定着率の高さ」があります。すでに自社文化や業務プロセスを理解しているため、入社直後から成果を出しやすく、適応にかかる時間も最小限です。さらに、再び自社を選んだという動機づけの強さから、長期的に活躍する傾向があります。

なぜ注目されているのか

従来の採用市場は「完全雇用」に近い状態で、失業率は3%を下回っています。つまり、働く意思と能力を持つ人材のほとんどはすでにどこかで働いている状況です。そのため、企業は「浮いている人材」を探すのではなく、新たな採用ターゲットとして「退職者層(アルムナイ)」に目を向ける必要があります。

また、マイナビキャリアリサーチLabの調査では、20代転職者の約4割が「元の会社に戻ることを検討したことがある」と回答しています。特に若手層にとっては、再入社がキャリアの選択肢として当たり前になりつつあるのです。

導入事例と効果

みずほ銀行の取り組み

みずほ銀行は2020年から独自のアプリを活用し、アルムナイとのネットワークを構築しました。社員とアルムナイの交流を促進し、ビジネスマッチングや再雇用の機会を作り出しています。登録者はすでに1200名を超えており、単なる採用手段にとどまらず、ビジネス面でのシナジーも生み出しています。

日立製作所の取り組み

日立製作所は2023年にアルムナイネットワークを立ち上げ、わずか9ヶ月で250人が登録、そのうち15人が再入社を果たしました。これは、アルムナイ採用が即効性を持つ手法であることを示す好例です。

アルムナイ採用がもたらす効果

アルムナイ採用には以下のような効果が確認されています。

定着率とエンゲージメント向上:再び選ばれる会社であることは、在籍社員にとっても安心感となり、心理的安全性の高い職場づくりにつながります。

採用率の高さ:プロフェッショナルバンクの調査によれば、アルムナイ再雇用の合格率が100%の企業は34%にも上り、多くの企業が50%以上という高い採用成功率を記録しています。

組織力の強化:元社員が戻ることで、社内外のネットワークやノウハウ共有が進み、組織全体の生産性やモチベーションが向上します。

会計事務所における活用ポイント

採用コスト削減

求人広告・紹介料を抑え、投資を教育や福利厚生へ。

即戦力の確保

業務・文化を理解済み。研修短縮で早期活躍。

定着率の向上

再選択の意思が強く、離職リスクを低減。

エンゲージメント

「戻れる職場」が心理的安全性を高め、活力向上。

採用コスト削減への効果

会計事務所にとって、採用コストの高さは頭の痛い課題です。求人広告費や人材紹介料を支払っても、必ずしも定着するとは限らないのが現実です。アルムナイ採用であれば、すでに自社を理解している人材を迎え入れるため、採用活動にかかるコストや工数を大幅に削減できます。結果的に採用の効率性を高め、余剰資金を教育や福利厚生などに投資することも可能になります。

即戦力人材のスムーズな定着

アルムナイは、すでに自社の業務フローや文化を理解しています。そのため、新入社員のように長期の研修やオンボーディング期間を必要とせず、短期間で現場に適応できます。会計事務所では繁忙期の負荷が大きいため、スピーディーに戦力化できる点は大きな魅力です。また、過去の在籍時に培った専門スキルをさらに高めて戻ってくるケースも多く、即戦力としての期待が高まります。

社員エンゲージメント向上

「一度辞めても戻れる」という仕組みは、在籍社員に安心感を与えます。離職を考える際にも「ここは戻れる職場だ」と思えることで、退職の決断を先送りする効果もあります。また、再入社した社員は「再び選んだ会社」としての誇りを持って働くため、周囲のモチベーションにも良い影響を与えます。会計事務所においては、心理的安全性を高めるうえで重要な施策となるでしょう。

講座の活用方法

講座① 労働市場の現状を知る

「浮いている人材はほぼゼロ」という現実を理解することで、なぜアルムナイ採用が必要なのかが明確になります。まずは現状認識を深めることが出発点です。

講座② アルムナイ採用のメリットを学ぶ

アルムナイ採用によって得られる「採用率の高さ」「即戦力性」「ネットワーク強化」などの利点を体系的に学ぶことで、自社に導入した場合の効果をイメージしやすくなります。

講座③ 採用プロセスを理解する

アルムナイ採用の流れは一般的な中途採用とは異なり、リファラル採用や受け皿イベントなど、独自のステップを踏むことが多いです。この講座では、応募から入社までの具体的な実務を学ぶことができます。

講座④ 再入社後のサポートを実践する

アルムナイ採用の成功は「再入社後の定着」にかかっています。退職理由の確認や心理的安全性の確保、メンタリング体制など、再入社者を支援する仕組みを構築することが不可欠です。この講座では、実際のサポート施策を体系的に学べます。

まとめ

人材不足が深刻化する中で、アルムナイ採用は「最後の優良労働市場」とも言われています。自社に理解のある人材を迎え入れることで、採用の確実性と定着率を同時に高めることができます。

会計事務所は専門人材の不足や繁忙期の負荷といった課題を抱えています。その解決策として、アルムナイ採用はきわめて実効性の高い方法です。さらに、eラーニングによる体系的な知識習得を組み合わせれば、導入から定着支援まで一貫して学べる環境が整います。今後の採用戦略において、アルムナイ採用を積極的に検討することが、会計事務所の成長と持続的な発展につながるでしょう。