パワハラと指導の違いとは?事例でわかる見極めポイント


僕のために言ってくれてるんだろうけど、言い方がキツいんだよね…

最近、さまざまな種類のハラスメントが社会問題となり、コンプライアンスの重要性がより一層高まっています。こうした状況の中で、現場で部下を指導するリーダーの中には、一般的な指導とパワハラの違いについて戸惑う人もいるのではないでしょうか。
そこで、この記事では具体的な事例を紹介し、パワハラと指導の違いについて解説します。
目次
パワハラと指導の定義

まず「パワハラ」や「指導」がそれぞれどのように定義されているのかを理解しておきましょう。
パワハラとは
パワハラとは、立場の強い人が業務に必要な範囲を超えて行う言動によって、働く人の職場環境に悪い影響を与えることであり、次の3つの条件のすべて満たしているものです。
- 上司や先輩などの立場を悪用した言動
- 仕事において必要な範囲を超えた行為
- 労働者の働く環境が害されること
業務上必要で適切な範囲内で行われる指示や指導は、パワーハラスメントには当たらないとされています。
指導とは
指導とは、働くうえで問題がある労働者に、問題点を指摘し、その改善をサポートするために行う業務上の対応です。
会社は労働契約に基づき、労働者に業務を指示する権利を持っています。また、管理監督の立場にある上司は、会社を代表して業務の指示を出し、部下を指導します。指導には、業務指導、業務指示、注意指導などさまざまな呼び方がありますが、適切に行われていればパワハラではなく、業務の一環として正当なものです。
そのため、パワハラと指導は明確に区別することが大切であり、適切な指導であれば適法で問題にはなりません。
「パワハラ」それとも「指導」?判断基準が知りたい!
では、具体的にパワハラと指導の違いは何を基準に判断したらよいでしょうか。以下にいくつかの判断基準を紹介します。判断する際には複数の基準を総合的に考慮することが重要です。特定の条件を満たしても、直ちにパワハラや適切な指導と断定できるわけではない点に注意しましょう。
目的が指導であるか
パワハラと指導の違いは、その行動の目的にあります。指導の場合、「改善しよう」という意図があり、以下のような要素が含まれることが大切です。
- 具体的な問題点を指摘する
- 改善のためのアドバイスをする
- 再発を防ぐための対策を提案する
たとえば、ミスを指摘して、改善策を一緒に考えることは、適切な指導といえます。しかし、抽象的な批判や嫌がらせのような注意、改善策を提示せずにただ否定するだけの行動は、パワーハラスメントに該当する可能性が高いです。
不適切な動機・目的があるか
パワハラの背景には不適切な動機や目的がある場合が多いです。具体例として、以下が挙げられます。
- 相手を不快にさせたい
- 相手を馬鹿にしたい
- ストレス発散が目的
- 自主退職を促す
- 職場から排除したい
指導の本来の目的は相手の成長を支援することであり、個人的な感情や目的で行うべきではありません。不適切な動機がある場合、それはパワハラと見なされるでしょう。特に「指導の目的」と「不当な動機」が混在するケースでは、動機が不当であればパワハラとなる場合があります。
行動の方法が適切か
指導とパワハラを分けるポイントは、行動の方法にもあります。指導の目的が正当でも、それを達成する手段が不適切であれば、パワハラになりかねません。たとえば、以下のようなケースは指導ではなく、パワハラにあたります。
- 不必要に強く叱る
- 何度も罵倒する
- 体罰を加える
- 人格を否定する
- 必要以上に責める
- ミスを過去に遡って指摘する
- 公の場でミスを指摘する
威圧的な態度は指導ではなく、パワハラです。しかし、緊急時には強い言葉が使われることもあります。行動の方法が適切かどうかを判断するためには、口調や声の大きさを記録し、パワハラがあれば録音することをおすすめします。
ハラスメント研修
ハラスメントは、良好な職場環境を保つために決して許されるものではなく、社員の精神的健康を守るためにも非常に重要なテーマです。 ビズアップ総研では、ハラスメントが企業・団体に及ぼす悪影響を様々な観点で学べる講座を多数ご用意しています。eラーニングで気軽に学べるe-JINZAIの2週間無料お試しID発行も行っておりますので、この機会にぜひご利用ください。
詳細・お申し込みはこちら指導ではなくパワハラと認定された事例

事例1:新入社員の指導におけるケース
運送会社に入社したばかりの新入社員Aさんに対し、必要な教育を行わずに、教育係の上司が「なぜできないのか」「何度同じことを言ったらわかるのか」などと長期間にわたってAさんを叱責し続けました。さらに、日誌へのコメントが「内容が分からない」とうだけで、励ましやアドバイスなど、具体的な指導を一切行いませんでした。
▶企業には、新入社員に対して研修を実施し、業務を指導する責任があります。また、上司には、新入社員が作成する日誌に対して適切なフィードバックを行い、指導する役割が求められます。これらを怠り、単に叱責を繰り返すだけの対応は、パワハラです。
事例2:教育訓練におけるケース
社員Bさんの制服に問題があったため、上司はそれを指摘し、「就業規則に違反している」と伝え、服装を改めるように指示しました。しかし、Bさんは「就業規則なんて知りません」と反抗的な態度を見せたそうです。
その翌日、上司はBさんの態度を改めさせるため、就業規則を写経させることにしました。しかも、他の社員がいる前で行い、Bさんが手を止めると強く叱責し、水を飲むことやトイレに行くことも簡単には許可しませんでした。
▶教育訓練で就業規則の写経を行うことは、実際の研修として実施されることもあり、法的に問題はありません。しかし、この事例では、他の社員への見せしめや、怒鳴る行為、飲み物を与えないといった行為がパワーハラスメントに該当する可能性が考えられます。会社は教育訓練を実施する際、目的が明確であるか、適切な方法で行われているか、全員に対して平等に行われているか検討することが必要です。
パワハラが認められなかった事例
この事件では、被告法人がデイサービスの利用者獲得のため、職員に対してチラシ配布や対策立案を指示しました。また、物品購入の許可拒否やチラシへの看護師募集の掲載を拒絶するなど、行政に対する不正を含む行為が行われていました。
原告は被告法人の常務理事による行為によって適応障害を発症し、慰謝料を請求しましたが、裁判ではパワーハラスメントとは認められませんでした。
▶この事例では、動機が見当たらなかったため、パワハラと認められませんでした。具体的には、被告理事には、原告に対してパワハラ行為を行う特別な動機が確認できなかったそうです。仮に指示や叱責が厳しい場合があったとしても、それは新設デイサービスの経営を安定させる目的で行われたもので、原告に対する個人的な感情によるものと認められる証拠がありませんでした。また、被告理事の指示内容は、常務理事という職務上、特に不当なものではないと判断されました。
パワハラにならない叱り方とは?
部下を指導する際にパワハラと受け取られないように指導を行うためには、どのようなことに気をつけるべきでしょうか?
適切な伝え方を心がける
指導の目的を明確にし、相手が納得しやすい形で伝えることが大切です。専門用語や抽象的な表現は避け、分かりやすい言葉を使いましょう。相手の理解度に合わせて説明し、指導することも重要です。
大勢の前で叱責するのではなく、個別に話すなどの配慮も求められます。また、「なぜこんなミスをしたのか!」と責めるのではなく、「ここを直すともっと良くなるよ」と改善方法を伝えることで、前向きな指導につながります。
アンガーマネジメントを身につける
必要以上に厳しい言葉や態度にならないよう注意が必要です。指導の際は、感情を抑え、冷静に伝えましょう。怒りにまかせて怒鳴るのではなく、まず6秒間ゆっくり数えながら深呼吸してみてください。
クッション言葉を使う
指導の際には、「忙しいところごめんね」や「確認したいことがあるのだけれど」といったクッション言葉を使うとよいでしょう。こうした工夫によって、円滑なコミュニケーションが生まれ、パワハラの防止にもつながります。
まとめ
指導とハラスメントの違いを正しく理解しておくことは、無意識のうちにハラスメントとなる行為を避けるために重要です。相手への思いやりを持ちながら、指導方法や伝え方に工夫を加えることが、ハラスメントの防止につながります。
2020年6月に施行された「パワハラ防止法」により、パワハラと指導の境界がより明確になったため、パワハラと誤解されないよう違いを理解しておくことが重要です。ただし、パワハラを恐れるあまり指導を避けるのも問題です。従業員の成長を支えるために、適切な指導方法を学び、実践していきましょう。
社員がハラスメントに関する知識やマナーをしっかりと学べるよう、企業としてハラスメント防止研修を実施することを検討してみてはいかがでしょうか。