増加する外国人患者にどう対応する?医療機関が整えるべき体制

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日本の医療機関において、外国人患者の受け入れが重要な課題となっています。訪日外国人観光客の増加や在留外国人の増加に伴い、医療機関に求められる対応も多様化しています。特に、言語の壁や医療制度の違い、文化的背景の違いなどが、外国人患者の診療において大きなハードルとなっています。

また、政府は「観光立国」の方針のもと、医療ツーリズムの推進にも力を入れており、今後さらに外国人患者の受診機会が増えると予想されます。しかし、多くの医療機関では外国人対応の整備が十分とは言えず、受け入れに苦慮しているのが現状です。

本記事では、日本の医療機関における外国人患者受け入れの現状を整理し、具体的な課題とその解決策を紹介します。

目次

日本の外国人患者受け入れの現状

訪日外国人観光客や在留外国人の増加に伴い、日本の医療機関における外国人患者の受け入れがますます重要になっています。厚生労働省の統計によると、訪日外国人数は年々増加しており、特にアジア圏(中国、韓国、台湾、東南アジア諸国)からの観光客が多くを占めています。また、日本で働く外国人労働者や留学生の数も増え続けており、外国人患者の医療ニーズが拡大しています。

増加する外国人患者と医療機関の現状

外国人患者の増加により、特に都市部の医療機関では外国人対応が求められる機会が増えています。一方で、地方の医療機関では外国人患者の受け入れ体制が整っていないケースも多く、十分な対応ができないことが課題となっています。

厚生労働省や観光庁の調査によると、日本の病院の多くは外国人患者の受け入れに不安を抱えており、以下のような問題を指摘しています。

  1. 言語の壁
    • 医師・看護師が英語を話せないため、診察や治療の説明が十分にできない。
    • 問診票や医療書類が日本語のみで、外国人患者が記入できない。
  2. 文化的・医療制度の違い
    • 宗教的な理由で特定の治療を拒否するケースがある。
    • 日本の医療制度に慣れていないため、診察の流れが理解されにくい。
  3. 医療費や保険制度の問題
    • 訪日外国人が海外保険に加入していない場合、高額な医療費の支払いが難しい。
    • 一部の外国人は医療費を未払いのまま帰国するケースがある。

これらの課題を解決し、外国人患者を円滑に受け入れるためには、医療機関側の体制整備が不可欠です。

外国人患者を受け入れるための課題と解決策

日本の医療機関が外国人患者を受け入れる際に直面する主な課題と、その解決策を以下の表にまとめました。

外国人患者受け入れの主な課題と解決策

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えっ!?こんなに高額なんですか?アメリカでは保険が適用されるのに…
言語の壁– 日本語が話せない患者との意思疎通が困難
– 問診票や診療案内が日本語のみで、患者が理解できない
– 医療通訳サービス(電話・オンライン)を活用
– 多言語対応の問診票・診療案内を準備
– バイリンガルスタッフを配置
文化・医療制度の違い– 宗教的な理由で特定の治療を拒否
– 日本の医療制度が理解されにくい
– 文化的背景を考慮した診療体制を整備
– 患者の希望に応じた医師・看護師の配置
– 外国人向けの医療制度ガイドを提供
医療費・保険制度– 外国人患者が医療費を支払えない
– 海外旅行保険の適用範囲が不明
– 事前の料金案内を明確化
– クレジットカード・電子決済の導入
– 海外保険会社との連携を強化

言語の壁をどう乗り越えるか

言語の壁を克服するために、以下の施策が考えられます。

  • 医療通訳サービスの活用
    • 電話・オンライン通訳を導入し、迅速な対応を可能にする。
    • 地域の医療通訳者と提携し、対面通訳の体制を整える。
  • 多言語対応の強化
    • 問診票・診療案内を英語、中国語、韓国語、ベトナム語などで準備。
    • 病院のホームページに多言語対応ページを設け、基本情報を提供する。
  • バイリンガルスタッフの配置
    • 英語・中国語が話せる看護師や事務スタッフを採用。
    • 外国人スタッフや医療ボランティアの活用を検討。
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文化的な違いへの対応

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先生、この薬には豚由来の成分は含まれていますか?私はイスラム教徒なので、豚由来の成分が入っている薬は避けたいのですが…

外国人患者の宗教・文化的背景に配慮し、適切な対応を行うことが重要です。

宗教的な配慮– イスラム教徒がハラール食を希望
– ヒンドゥー教徒が牛肉を避ける
– ハラール・ベジタリアン対応の食事を提供
– 食事の事前確認を徹
診療・治療の価値観– 女性患者が男性医師を避けたい
– 特定の治療(輸血など)を拒否
– 女性医師の指名制度を導入
– 代替治療の選択肢を提示
医療制度の理解不足– 保険制度がわからず、自己負担額を誤解– 外国人向けの医療ガイドを提供
– 簡単な多言語説明書を作成

医療費や保険制度の問題への対策

外国人患者が医療費を支払えない事態を防ぐため、以下の対策を講じることが重要です。

  • 事前の料金案内と支払い方法の明示
    • 外国人向けに診療費の目安をウェブサイトやパンフレットで公表。
    • クレジットカード、電子マネー決済を導入し、現金不要の体制を整備。
  • 海外旅行保険・国際保険の活用
    • 診察時に保険証の提示を求め、適用範囲を確認する。
    • 提携可能な海外保険会社を増やし、未払いリスクを軽減。
  • 医療費保証の仕組みの導入
    • 高額治療の場合は、事前にデポジット(保証金)を預かる制度を導入。
    • 未払いが発生した場合の対応策(代理請求の仕組みなど)を検討。

医療機関が今後取り組むべきこと

外国人患者の受け入れを強化するために、医療機関が今後取り組むべきポイントを整理します。

受け入れ態勢の整備

医療機関は、外国人患者の受け入れ体制を強化するために、以下の施策を検討する必要があります。

  • 多言語対応の強化(翻訳ツールの導入、バイリンガルスタッフの雇用)
  • 外国人向けの診療ガイドを作成し、わかりやすい説明を行う
  • 医療通訳者との連携を深め、必要な際に迅速に対応できる体制を作る

公的支援の活用

日本政府や自治体は、医療機関が外国人患者を受け入れやすくするために、さまざまな支援策を提供しています。これらを積極的に活用することで、受け入れ体制を強化しながら、経済的負担を軽減することが可能です。

国の補助金・助成金制度

  • 厚生労働省の「医療機関の多言語対応支援事業」
    診療ガイドや多言語対応の強化に必要な費用の一部を補助する制度。
  • 観光庁の「インバウンド対応医療機関支援」
    訪日外国人の増加に伴い、外国人対応強化を行う医療機関への助成金制度がある。

地域自治体のサポート

  • 地域の外国人支援センターとの連携
    外国人住民向けの相談窓口と連携し、医療機関の情報提供を行う。
  • 医療通訳者の派遣サービス
    自治体やNPOが無料または低価格で提供する医療通訳サービスを活用する。

医療機関のブランディング

外国人患者に「この病院なら安心して受診できる」と思われるためには、適切な情報発信が重要です。具体的には、以下のような施策を行うことが効果的です。

病院のホームページの多言語対応

  • 診療内容、医師紹介、診察の流れを多言語で掲載
    英語、中国語、韓国語などで病院の基本情報を提供し、外国人患者の不安を軽減する。
  • FAQ(よくある質問)を作成
    「外国人でも受診できますか?」「保険は使えますか?」といった質問に対する回答を掲載し、事前に情報を提供する。

訪日外国人向けの医療ツーリズムの開発

医療ツーリズム(Medical Tourism)とは、健康診断や美容医療を目的に日本を訪れる外国人に医療サービスを提供する仕組みです。以下のような施策を実施することで、海外からの患者を増やすことが可能です。

  • 外国人向けの健康診断プログラムの提供
    日本の精度の高い健康診断を外国人向けに提供し、集客を図る。
  • 美容医療や人間ドックのパッケージ化
    美容皮膚科、歯科治療、再生医療などの分野で、外国人患者向けのパッケージプランを用意する。

SNSや口コミサイトの活用

  • 外国人向けの健康診断プログラムの提供
    日本の精度の高い健康診断を外国人向けに提供し、集客を図る。
  • 美容医療や人間ドックのパッケージ化
    美容皮膚科、歯科治療、再生医療などの分野で、外国人患者向けのパッケージプランを用意する。

まとめ

外国人患者の受け入れは、日本の医療機関にとって今後避けられない課題です。言語の壁や文化的な違い、医療費の問題を克服するためには、医療機関側の積極的な対応が求められます。

成功している医療機関の事例を参考にしながら、多言語対応や医療費対策を進めることで、外国人患者の受け入れを円滑に進めることが可能です。また、公的支援を活用しながら、より多くの患者に対応できる環境を整えることが、医療機関の発展にもつながるでしょう。

今後の日本の医療の国際化に向けて、経営者としてどのような準備ができるのか、ぜひ前向きに検討してみてください。