「男女雇用機会均等法」とは?企業が守るべきコンプライアンスのポイント徹底解説

近年、企業の法令順守における「男女雇用機会均等法」の重要性が高まっています。

採用や昇進での男女差別、職場のハラスメント、育児・介護休業制度の運用など、実務面での課題が山積している中小企業やスタートアップは多いのではないでしょうか。本記事では、企業が陥りやすい法令違反の事例と具体的な対応策を解説。

採用から評価、育成まで、各フェーズにおける実践的なコンプライアンス対策を、豊富な事例とともに徹底解説していきます。

目次

男女雇用機会均等法とは?その目的と概要

男女雇用機会均等法とは、男女が平等に雇用の機会を得られるようにするための法律です。

企業は、採用・昇進・配置・教育訓練などのあらゆる場面で男女を平等に扱う必要があります。この法律に違反した場合、企業には行政指導や社会的制裁が課せられる可能性があるため、適切な対応が重要です。

男女雇用機会均等法が生まれた背景

1985年に制定された男女雇用機会均等法。
当時の日本では、採用時の性別による制限や、結婚・出産を理由とした退職勧奨が一般的に行われており、男女間に大きな差がありました。

この法律が生まれた背景には、1970年代から高まった女性の社会進出と、国際的な男女平等の潮流があります。また、国連の女子差別撤廃条約の批准に向けて、国内法の整備が求められていたことも、法制定の重要な要因といえるでしょう。

さらに、経済のグローバル化に伴い、国際競争力の維持・向上のために女性の能力を最大限に活用する必要性が認識され始めたのも、この法律の制定につながっています。

法律で定められた差別禁止規定のポイント

男女雇用機会均等法では、以下の項目について性別を理由とする差別を禁止しています。

  • 募集・採用における差別禁止
    • 求人広告での性別指定
    • 採用試験での性別による評価基準の違い
    • 面接時の結婚・出産予定の質問
  • 配置・昇進における差別禁止
    • 職種や部署配置での性別による制限
    • 管理職登用における男女差
    • 研修機会の提供における差別
  • 教育訓練・福利厚生での差別禁止
    • 研修参加機会の制限
    • 社宅・寮の利用制限
    • 各種手当ての支給条件の違い

企業には、性別に関係なく全ての従業員に公平な労働環境を提供する責任があるのです。

企業の社会的責任から見る法令遵守

企業が男女雇用機会均等法を遵守することは、単なる法的義務を超えた社会的責任(CSR)として重要な意味を持ちます。

多様な人材の活用は、イノベーションの創出や組織の持続的成長につながります。また、ESG投資の観点からも、ジェンダー平等への取り組みは企業価値を高める重要な要素として評価されています。

▼具体的な取り組み

  1. 定期的な社内研修の実施
  2. 相談窓口の設置と周知
  3. 採用・評価基準の明確化
  4. 女性管理職比率の数値目標設定
  5. ワークライフバランス支援制度の充実

このような取り組みを通じて、企業は法令遵守と社会的責任を果たしながら、組織の持続的な成長を実現することができます。

男女雇用機会均等法で禁止されていること

男女雇用機会均等法で禁止されている、知っておきたい項目を見ていきましょう。

採用における差別

企業は採用時に性別を理由に応募者を排除してはいけません。「男性限定」「女性限定」といった募集要項は原則として禁止されています。
適正な採用基準を設け、公正な選考を行うことが求められます。

昇進・昇格における差別

昇進や昇格の基準も、性別に関係なく公平に設定する必要があります。
たとえば「女性だから管理職に向かない」といった固定観念に基づく判断は違法です。

配置・異動における差別

職務の割り当てや部署の異動も、性別に基づく不利益な取り扱いを避ける必要があります。「女性は総合職に向かない」「男性は育児休業を取るべきではない」といった考え方は認められません。

教育訓練における差別

社内研修やスキルアップの機会も、性別に関係なく提供することが義務付けられています。特定の性別のみが受けられる研修がある場合、それは違法となる可能性があります。

福利厚生における差別

企業の福利厚生制度も、男女平等であるべきです。住宅手当や家族手当の支給において、性別による差をつけることは違反となります。

退職勧奨・解雇における差別

結婚や出産、育児を理由とした退職勧奨や解雇は厳しく禁止されています。企業は、育児や介護と仕事の両立を支援する環境を整える必要があります。

ハラスメント

職場におけるセクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントの防止も、企業の重要な責務です。適切な相談窓口を設けるなど、社員が安心して働ける環境づくりを進める必要があります。

おすすめ

コンプライアンス研修

企業はCSR(Corporate Social Responsibility)と呼ばれる、社会的責任を果たす必要があります。社員1人1人がモラルやルールに対する意識を高く持ち、社会的規範となる行動をとり、法令順守を推し進めていくことが、組織発展の土台となります。
コンプライアンスとCSRは密接に関連しています。企業がコンプライアンスを重視することは、法律や規制に従い、倫理的な行動を取ることを意味します。コンプライアンスが重視されることで、企業は法的リスクを軽減し、法律違反による罰金や訴訟、業界規制機関からの制裁を回避することができます。また、適切なコンプライアンスは企業の信頼性を高め、顧客や取引先、投資家からの信頼を築くのに役立ちます。

詳細・お申し込みはこちら

見落としがちな男女雇用機会均等法違反の具体例

どのようなシーンでコンプライアンス違反を犯してしまいがちなのか、具体例を見ていきましょう。

求人情報における差別的表現

求人情報での表現のなかに、気づかないうちに差別的な要素が含まれていることがあります。

▼特に注意が必要な表現例

  • 「若い女性活躍中」「女性が働きやすい」
  • 「体力に自信のある方」(間接的な男性限定)
  • 「リーダーシップのある方」(男性イメージの強調)

これらの表現は、意図せず特定の性別を排除する可能性があるため、代わりに「経験・スキルを活かせる方」などの中立的な表現を使用しましょう。

採用面接での不適切な質問

面接担当者が何気なく行う質問に、違法となるものが含まれる場合があります。

▼禁止されている質問の一例

  • 「結婚の予定は?」
  • 「子育てと仕事の両立は大丈夫?」
  • 「出産後も働き続けるつもり?」

代わりに、職務に関連する質問(「このポジションでどのように貢献できますか?」など)に焦点を当てましょう。

育児・介護休業制度の整備

制度は整備されていても、運用面で問題が発生するケースが多く見られます。

▼よくある違反例

  • 制度の存在を周知していない
  • 取得手続きが複雑で分かりにくい
  • 代替要員の確保を怠っている

制度の整備だけでなく、誰もが利用しやすい環境づくりと、具体的な運用マニュアルの作成が重要です。

昇進・昇格の機会差別

表面上は平等でも、実質的な機会差別が生じているケースがあります。

▼具体的な事例

  • 重要案件を男性にのみ任せる
  • 女性の残業を制限する
  • 転勤を昇進の必須条件とする

能力や成果に基づく公平な評価基準を設定し、定期的な見直しを行うことが必要です。

育児休業や産休の取得妨害

直接的な妨害でなくても、以下のような行為は違法となります。

  • 「周りに迷惑がかかる」と言及する
  • 取得時期の変更を強要する
  • 復帰後の不利益な配置転換を示唆する

法定の権利である休業の取得を、心理的にも妨げてはいけません。

研修やスキルアップ機会の制限

性別を理由に特定の研修に参加させないことは違法です。

▼見落としがちな機会制限の例

  • 重要な研修を残業時間に設定
  • 育児中の社員を研修対象から除外
  • 海外研修を既婚者対象外とする

全ての従業員が参加できるよう、開催時間や場所の配慮が必要です。

暗黙のルール

組織内の暗黙のルールが、知らず知らずのうちに差別を生んでいるケースがあります。

▼具体例

  • 「女性は総合職に向いていない」という思い込み
  • 「管理職は男性がなるもの」という固定観念
  • 「育児中の社員は重要な仕事を任せられない」という偏見

これらの無意識の偏見を排除するため、定期的な研修と意識改革が重要です。

男女雇用機会均等法違反による罰則

男女雇用機会均等法に違反してしまった場合、どのような罰則が課せられるのでしょうか。

行政指導

法令違反が確認された場合、まず労働局による行政指導が行われます。

▼具体的な指導の流れ

  1. 違反内容の調査と事実確認
  2. 改善命令の発出
  3. 是正計画の提出要求
  4. 改善状況の確認

企業は指導に従い、具体的な改善計画を立て、速やかに是正措置を講じる必要があります。

企業名の公表

行政指導に従わない悪質な企業は、厚生労働省によって企業名が公表されます。

▼公表対象となる違反事例

  • 度重なる改善命令の無視
  • 深刻な差別的取り扱いの継続
  • 悪質なハラスメント事案の放置

企業名が公表されると、信用が低下し社会的な信頼を損なう可能性があります。

男女雇用機会均等法以外の法律に基づく罰則

特に重大な違反の場合、複数の法律に基づく罰則が重複して適用されることもあります。罰金やその他の制裁措置が科されることもあるでしょう。

民事訴訟(損害賠償請求)

被害を受けた従業員から、民事訴訟を提起される可能性があります。裁判に発展すれば、企業の評判や財務状況への悪影響は避けられないでしょう。
さらに訴訟費用や弁護士費用など、経済的な負担も少なくありません。

社会的・経済的リスク

法的罰則以外にも、企業は重大なリスクを負うことになります。

▼具体的なリスク

  • 企業イメージの低下
  • 採用活動への悪影響
  • 株価の下落
  • 取引先からの信用低下
  • ESG投資における評価の低下

取引先や投資家の信頼を損ない、企業活動に大きな影響を与えることになります。また、従業員のモチベーション低下や離職率の上昇を招くかもしれません。

まとめ

男女雇用機会均等法は、性別による差別をなくし、平等な雇用環境を作るための重要な法律です。

企業は、採用や昇進の際に公平な基準を設け、ハラスメントの防止策を徹底する必要があります。また、意図せずに違反するケースもあるため、定期的な研修やガイドラインの見直しも大切です。

違反した場合のリスクも大きいため、企業として積極的にコンプライアンスを強化していきましょう。