労働安全衛生の「3管理」とは?法令遵守のための基本知識

KEYWORDS

企業活動において、従業員が安全かつ健康に働ける環境を整えることは、法的義務であると同時に、企業の持続的な成長を支える土台です。労働安全衛生法は、働く人々の命と健康を守るための最も基本的なルールブックと言えます

しかし、その範囲は膨大で、専門的な用語も多く、「どこから手を付ければよいかわからない」という担当者も少なくありません。本記事では、企業が最低限知っておくべき法の全体像と管理のポイントを解説します。まずは基本を押さえ、自社に必要な対策を見極める視点を養いましょう。

目次

労働安全衛生とは?その目的と基本的役割

「労働安全衛生」という言葉は、単に事故を防ぐことだけを指すのではありません。法律が目指すゴールと、大きく2つに分類される管理領域について、まずは定義を確認します。

労働安全衛生法の目的と定義

労働安全衛生法は、労働基準法と連携し、労働災害を防ぐための『具体的な基準』や『責任体制』を明確にするための法律です

その目的は、働く人の安全と健康を守るだけではありません。『安全と健康の確保』に加え、『快適な職場環境の形成』も重要なゴールとして掲げられています。 つまり、単に『怪我や病気を防ぐ』という守りの対策だけでなく、誰もが働きやすい『快適な職場』というプラスの状態を目指すことが、法によって求められているのです。

また、この法律では事業者と労働者の双方に義務があります。 事業者は、国が定めた労働災害防止措置を実行する義務を負います。一方で労働者にも、事業者が講じた措置を遵守し、協力する義務があります。安全衛生は、会社と従業員が共に取り組むべき活動なのです。

「安全管理」と「衛生管理」の違い

労働安全衛生活動は、大きく「安全管理」と「衛生管理」の2つの側面に分けられます。

  • 安全管理: 主に労働者の「負傷の予防」を目的とします。機械設備の本質的な安全化や、危険予知活動などの安全活動を通じて、突発的な事故を防ぐアプローチです。
  • 衛生管理: 労働者の「疾病・健康障害の予防」および「健康の維持・向上」を目的とします。有害物質や作業負荷など、目に見えにくい健康リスクを管理します。

事業者は、機械による危険や爆発の防止といった「危険防止措置」だけでなく、ガスや騒音、放射線などによる「健康障害の防止措置」も講じなければなりません。これらは業種や取り扱う物質によって細かく規定されています。

衛生管理の核心!労働衛生の「3管理」

衛生管理を実践する上で、基本となるフレームワークが「3管理」です。職場に潜む有害な要因をどのようにコントロールするか、その手法の全体像を把握しましょう。

作業環境管理・作業管理・健康管理の概要

労働衛生管理は、以下の3つの手法を適切に組み合わせることで機能します

  1. 作業環境管理(環境へのアプローチ): 作業環境に存在する有害物質や騒音などの「有害因子」そのものを除去する対策です。換気装置の設置などがこれにあたり、工学的な対策を実行管理します。
  2. 作業管理(働き方へのアプローチ): 環境対策だけではリスクをゼロにできない場合、作業内容や方法を改善します。曝露時間を減らす手順の策定や、労働者への教育を通じて、身体的・精神的負荷を最小限に抑える管理的施策です。
  3. 健康管理(人へのアプローチ): 労働者に健康障害が発生していないかを確認し、個人の健康状態に応じて適正配置や指導を行います。健康診断の結果に基づく事後措置などが該当します。
現場で迷わない「実務力」を、動画で手に入れる
「3管理」の基礎から現場応用まで、事例で学ぶオンデマンド研修
買い切り型だから、自分のペースで何度でも復習できます。
法令の知識を、確かな「自信」に変えませんか?
\まずは無料でチェック!実際の講義の様子をサンプル動画で確認 /
講座の詳細・お申し込みはこちら

労働災害発生時に企業が問われる「5つの責任」

安全衛生対策を怠り、労働災害が発生してしまった場合、企業はどのような責任を負うことになるのでしょうか。単なる金銭的な補償にとどまらない、多重の責任が発生します。

刑事・民事・行政・補償・社会的責任の全容

労働災害が発生すると、企業は主に以下の5つの責任を問われる可能性があります

  1. 刑事責任: 労働基準監督官による捜査や警察の捜査により、送検されたり罰則を受けたりする責任です。
  2. 民事責任: 被災者側から損害賠償を請求される責任です。
  3. 補償責任: 労災保険等により治療や生活を補償する責任です。
  4. 行政責任: 機械の使用停止や是正勧告などの行政処分を受ける責任です。
  5. 社会的責任: 報道等により企業の社会的信用が失墜し、取引や採用に悪影響が出る責任です。

特に「刑事責任」では、違反行為をした本人だけでなく、法人である企業も罰せられる「両罰規定」がある点に注意が必要です

「安全配慮義務」とは何か

法的責任の根底にあるのが「安全配慮義務」です。使用者は、労働契約に伴い、労働者が安全に働けるよう配慮する義務があります。 これは「結果責任」ではなく「予防責任」であると解釈されています。つまり、災害が発生したという事実だけで直ちに責任を問われるわけではありませんが、予見可能な危険に対して「回避するための対策」を尽くしていなければ、義務違反となります。法令を遵守しているだけでは不十分で、現場の状況に応じた自主的な安全活動が求められるのです。

規模・業種別に見る「安全衛生管理体制」の構築

企業は、事業場の規模や業種区分に応じて、責任者や専門家を選任し、組織的な管理体制を作らなければなりません。

総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者の役割

一定規模以上の事業場では、以下のような役割分担が必要です。

  • 総括安全衛生管理者: 工場長や店長など、事業場のトップが就任し、業務を統括します。
  • 安全管理者: 安全に係る技術的事項を管理します。建設業や製造業など、災害リスクの高い業種で選任が必要です。
  • 衛生管理者: 衛生に係る技術的事項を管理します。業種に関わらず、常時50人以上の事業場で選任が必要です。

産業医やその他の専門スタッフの配置

50人以上の事業場では医師である「産業医」の選任も必須です。 さらに近年の法改正により、化学物質を扱う事業場での「化学物質管理者」や、保護具を使用させる場合の「保護具着用管理責任者」など、新たな専門職の選任が必要なケースも増えています

【要注意】その「選任漏れ」は法令違反です
「自社の区分は?」「誰が必要?」判断の難しい選任要件や法改正により、
知らぬ間に違反状態となるケースが多発しています。

「労働安全衛生基礎研修」なら、複雑な要件や最新ルールをスッキリ整理。
リスクを回避し、正しい管理体制を構築しましょう。
研修のカリキュラムを見る

押さえておくべき関係法令とガイドライン

労働安全衛生法以外にも、関連する法規や指針は多岐にわたります。担当者はこれらを広く認識しておく必要があります。

労働安全衛生法を取り巻く関連法規

労働安全衛生法の下位には、具体的な規制を定めた「労働安全衛生規則」をはじめ、「事務所衛生基準規則」「有機溶剤中毒予防規則」など、多数の規則が存在します。また、労働条件の基礎である「労働基準法」や、職業病対策の「じん肺法」なども密接に関わっています。

メンタルヘルスや受動喫煙防止などの指針

法令に加え、厚生労働省が公表する各種「指針(ガイドライン)」への対応も重要です。 「労働者の心の健康の保持増進のための指針」や「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」など、時代の変化に合わせた指針が出されています。これらは、法的拘束力は法令と異なりますが、安全配慮義務を履行する上での重要な判断基準となります。

まとめ

労働安全衛生は、従業員の命を守ると同時に、企業経営のリスクを回避し、生産性を高めるための重要な経営課題です。法令遵守はもちろん、3管理の徹底や安全配慮義務の履行は、企業の存続に関わる重大なテーマと言えます。

複雑な法令を読み解き、現場に即した管理体制を築くのは決して容易なことではありません。 だからこそ、独学ですべてを抱え込まず、時には専門的なカリキュラムを頼るのも賢い選択です。効率よく知識を整理し、自信を持って安全衛生管理に取り組める環境を整えていきましょう。