自治体DXが進まない理由。その必要性を考える

近年、国が掲げるデジタル社会の実現に向けて「自治体DX」は大きな注目を集めています。行政サービスをデジタル化し、住民にとって利便性の高い仕組みを提供することは、もはや避けて通れない課題といえるでしょう。住民からは「もっと手続きを簡単にしてほしい」「時間をかけずに利用したい」といった声が増えており、こうしたニーズに応えるには従来の紙中心の業務プロセスを見直す必要があります。DXは単なるシステム導入ではなく、職員の意識改革や業務の再設計を伴うため、短期間で成果を出すのは容易ではありません。
本記事では、自治体DXが進まない背景を整理しながら、その必要性を改めて考えます。さらに、改革を実際に前進させるための学び方やアプローチについても解説していきます。
目次
自治体DXの必要性
自治体DXの目的は、紙の手続きを単純に電子化することではありません。本質は、住民サービスの利便性を高めつつ、限られた人員と予算を効率的に活用できる業務環境を整えることにあります。日本全体で人口減少や高齢化が進むなか、従来の仕組みだけでは住民ニーズに十分応えることが難しくなってきました。
例えば、窓口での申請に長時間を要する、部署間の連携が紙ベースで行われる、災害時に情報が共有されにくいといった現状は、多くの自治体に共通する課題です。こうした状況を放置すれば、住民の不満は高まり、行政への信頼低下にもつながりかねません。
そのため、デジタル技術を前提とした業務改革はもはや選択肢ではなく必須条件といえるでしょう。DXを進めることで、住民に「便利になった」と実感してもらえるだけでなく、職員にとっても業務の負担軽減や働きやすさの向上につながります。さらに、将来にわたって持続可能な自治体運営を可能にする基盤ともなるのです。
自治体DXが進まない理由(5つの壁)

DXの必要性を理解していても、なかなか進展しないのはなぜでしょうか。その背景には複数の要因が存在します。ここでは代表的な5つの壁について整理します。
1. 現場に定着しない
DX推進で最も多い問題は、導入した施策やシステムが現場に根付かないことです。新しいシステムを導入しても、十分に活用されず、結果的に従来の紙業務と併用されるケースが多く見られます。その背景には、DXが「追加業務」とみなされ、日常の仕事に組み込まれていない現実があります。職員からすると負担が増えるだけに感じられ、改革が逆効果となる場合もあるのです。業務の一部として自然に取り入れる工夫が不可欠でしょう。
2. デジタル人材の不足
専門的な知識を持つ職員が少ないことは、多くの自治体に共通する課題です。その結果、外部ベンダーへの依存度が高まり、システム導入後に十分活用できずに形骸化してしまうことがあります。加えて、内部に「説明できる人」や「改善提案を出せる人」が育たないため、組織全体の理解が深まりません。これは単に人数の不足ではなく、人材育成や学習の仕組みが整っていないことにも起因しています。
3. 既存業務の複雑さと縦割り文化
自治体業務は多岐にわたり、部署ごとに区切られているのが特徴です。その結果、横断的なデジタル化が進みにくく、個別最適にとどまることがしばしばです。また、法律や規則に基づく手続きが多いため、業務プロセスの見直しに抵抗があるのも現実です。縦割り文化が強い組織では、改革が進まないのは必然といえるでしょう。
以下に、自治体でDXが進みにくい代表的な要因を表で整理しました。
自治体DXを阻む5つの要因
要因 | 具体的な課題 |
---|---|
現場に定着しない | システムが使われず、紙業務と併用される |
デジタル人材不足 | 専門知識を持つ職員が少なく、外部依存が高い |
業務の複雑さ | 縦割り文化により横断的な改革が困難 |
予算・リソース制約 | 財源が限られ、DX投資が後回しになる |
上層部の理解不足 | リーダーシップ不足で改革が進まない |
4. 予算・リソースの制約
自治体は限られた財源の中で予算を配分するため、DX関連の投資は後回しにされやすいのが現実です。システム導入や職員研修は初期コストだけでなく維持管理費も必要であり、優先順位を下げざるを得ない状況に陥ります。その結果「必要性は理解しているが、実際に着手できない」という矛盾が生じてしまいます。これは多くの自治体に共通するジレンマでしょう。
5. 上層部の理解不足
首長や管理職がDXの意義を十分理解していない場合、現場からの提案が形になりにくいのも大きな壁です。DXは短期的に成果が見えにくく、中長期的な投資が求められるため、強いリーダーシップがなければ進展しません。上層部が「現場任せ」にしてしまうと方向性が曖昧になり、時間だけが過ぎる状況に陥ります。結果的に職員のモチベーションも下がり、改革そのものが停滞してしまうのです。


自治体DXと自治体における業務改革の進め方
動画数|8本 総再生時間|135分
本講座では少子高齢化や労働力不足、財政制約といった2040年問題を背景に、自治体が持続的に行政運営を行うためのDX(デジタルトランスフォーメーション)の意義と進め方について学びます。受講者はDXを“自分ごと”として捉え、自治体の未来に向けた取り組みを始めるための実践的な指針が得られます。
動画の試聴はこちらDX推進の第一歩は知識と事例から

自治体DXを前進させるには、最初の一歩をどう踏み出すかが重要です。大規模なシステム導入や全面的な改革をいきなり進めるのは難しく、現場が混乱する原因にもなります。そのため、まずは基盤となる知識を職員全体で共有し、事例を参考に小さな実践を積み重ねることが効果的です。ここでは知識と事例の学び方について整理します。
基礎知識を職員全体で共有する
DXを進める際に欠かせないのが、共通の基礎知識を職員全体で持つことです。特定の担当者だけが理解していても、組織として一体感が生まれなければ改革は停滞してしまいます。基礎用語やDXの目的、国の方針などを理解することで、同じ方向性を持った議論が可能になるのです。こうした知識の土台があって初めて、具体的な施策を考える準備が整います。
他自治体の事例を学ぶ意義
成功事例や失敗事例を学ぶことは、実践の大きな参考になります。特に同規模の自治体や近隣地域の事例は、自組織でも再現しやすく、導入の現実的なヒントとなるでしょう。逆に失敗事例は「なぜうまくいかなかったのか」を考えるきっかけとなり、自治体特有の課題に気づく助けにもなります。事例から得た学びを共有することで、現場に「自分たちもできる」という具体的なイメージを持たせられるのです。
小さな改善から始める重要性
DXを一気に進めるのは難しく、現場の負担も大きくなります。そのため「まずはできるところから」という姿勢が必要です。例えば、申請書類のデジタル化や庁内での情報共有システムの導入など、小規模な改善を積み重ねていくことが有効です。小さな成功体験を積むことで職員の意識も変わり、次第に大きな改革へとつながっていくでしょう。
eラーニングで学ぶ自治体DXの実践方法
自治体DXを進める上で重要なのは、効率的かつ持続的に学べる仕組みを整えることです。その有効な手段として注目されているのがeラーニングです。オンライン形式であれば時間や場所に左右されずに受講でき、職員一人ひとりが自分のペースで基礎から応用まで学べます。特にDXのように抽象的な概念や専門用語が多い分野では、体系的に整理された教材を繰り返し学べることが大きな強みでしょう。
さらに、eラーニングは理解度に応じて学習を進められるため、職員間で生じやすい知識の差を補う効果も期待できます。基礎知識をしっかり固めることで、DX推進に必要な共通言語が生まれ、部局をまたいだ議論や協働がスムーズになるのです。加えて、オンラインで学んだ内容を活かし、庁内研修や現場の改善活動と組み合わせることで、知識が「使えるスキル」として定着していきます。
自治体DXの遅れを取り戻すためには、まず「何をどこから始めればよいのか」を明確にする必要があります。その第一歩としてeラーニングを導入すれば、職員が共通の土台を持ち、DXのロードマップを描ける体制づくりに直結するでしょう。
まとめ
自治体DXは、住民サービスを便利にし、職員の働きやすさを高めるために欠かせない取り組みです。しかし、現場への定着不足、人材不足、縦割り文化、予算制約、上層部の理解不足といった複数の壁が存在するのも事実です。これらの課題を乗り越えるためには、まず知識と事例を共有し、組織全体で同じ方向を向くことが出発点になるでしょう。
そのうえで効果的なのが、eラーニングを活用した体系的な学びです。基礎から学び直すことで、DX推進に必要な共通言語を持ち、業務改革を具体的に描けるようになります。
その第一歩として参考になるのが、e-JINZAI lab.の自治体DXと自治体における業務改革の進め方です。自治体職員が直面する課題に沿って、業務改革の進め方を丁寧に解説しています。「自分たちの自治体でどこから始めればいいのか」を考えたいのであれば、まずは信頼できる学習ツールを活用しましょう。