OJTとは|Aの壁・Bの壁を超える育成メソッド

OJT eラーニング

近年、企業の人材育成の現場で「OJT(On the Job Training)」が再び注目を集めています。人材不足が深刻化し、新入社員の即戦力化が求められる中、現場での教育の質が企業競争力を左右する時代になりました。ところが、実際にはOJTが「教える人の感覚頼み」や「やりながら覚えてもらう」といった属人的な形に偏り、成果が見えにくいという声も少なくありません。

このような課題を解決するために必要なのが、OJTを“仕組みとして再設計”する視点です。本来のOJTは「教えるための設計図」を描き、意図的に成長を促すための仕組みです。本記事では、OJTの正しい意味と実践のポイント、そしてeラーニングを活用した新しいOJTの形を解説していきます。

目次

OJTとは何か

On the Job Trainingの定義と目的

OJTとは、「職場での実務を通じて、業務知識やスキルを身につける教育手法」を指します。上司や先輩社員が指導者となり、日常の仕事の中で計画的に教育を行うことが特徴です。単に「仕事を教える」ではなく、実際の業務を教材として「できるように導く」プロセスこそがOJTの本質です。

OJTの目的は、現場で即戦力として活躍できる人材を育てることにあります。実践の中で学ぶことで、知識だけでなく、判断力・対人スキル・責任感といった行動面の成長を促せる点が、他の教育手法にはない強みです。

Off-JTとの違い

OJTとよく比較されるのが、Off-JT(Off the Job Training)です。これは職場を離れ、研修や講義などで体系的に学ぶ方法を指します。Off-JTが「知識のインプット」を目的とするのに対し、OJTは「行動への落とし込み」を重視します。つまり、Off-JTで学んだ知識を、OJTで現場実践に変えることで、初めて本当の成長が生まれるのです。

両者は対立するものではなく、補完関係にあります。たとえば新入社員研修で基本理論を学び、その後の配属先でOJTを通じて実践を重ねることで、知識が「使えるスキル」に変わります。この流れを設計できるかどうかが、教育担当者や経営者にとっての重要なポイントです。

「教えるための設計図」としてのOJT

人事政策研究所の講座資料では、OJTを「教えるための設計図」と位置づけています。これは、単なる経験の共有ではなく、「何を・どの順で・どのレベルまで教えるか」を構造化するという考え方です。具体的には、業務内容を分析し、行動単位に細分化し、指導の順序を設計することが求められます。

この「設計図」こそが、OJTを属人化から脱却させる鍵です。教える人によってやり方が違う状態では、どれだけ教育に時間をかけても成果は安定しません。誰が担当しても一定の成果を出せるOJTの仕組みづくりが、今の時代の人材育成に不可欠です。

OJTを成功させる「教えるための設計図」

OJT設計の流れ ― 教えるための設計図モデル
1

業務分析

全体像を把握

2

行動細分化

行動単位で教える

3

フィードバック設計

定着を促す

業務分析で仕事の全体像を見せる

OJTの最初のステップは、教える前に「仕事の全体像を共有すること」です。講座レジュメでも「まず全体を見せる」と繰り返し強調されています。これは、学習者が自分の役割や目的を理解しないまま細かい作業を覚えても、行動が定着しにくいためです。まずは業務の流れや成果物を全体的に示し、「なぜこの仕事を行うのか」を理解させることが重要です。

行動を細分化し、具体的に伝える

次に大切なのは、仕事を行動レベルに細分化することです。「ヒアリングする」「確認する」「提案する」といった大まかなプロセスを、さらに「誰に」「いつ」「どのように」と具体的に落とし込むことで、学習者がイメージしやすくなります。人は具体的にイメージできないことは実行できないため、行動単位での指導がOJTの成功を左右します。

教える側の準備がOJTの成否を決める

OJTで最も見落とされがちなのが、「教える側の準備不足」です。忙しい現場では、指導者がその場しのぎで教えることが多く、結果として「本人のセンスに任せる」指導に陥りがちです。OJTを設計する際は、教える側があらかじめ「何をどの順に教えるか」を明確にし、ポイントごとに確認・フィードバックの仕組みを作ることが欠かせません。

教える側が“設計図”を持つことで、OJTは初めて「計画的な育成」になります。これにより、属人的な教育から脱却し、再現性のある人材育成サイクルを実現できるのです。

行動分析学に基づくOJT実践 ― AとBの壁を超える

行動の3ステップとA・Bの壁

行動の3ステップとは

OJTをより効果的に行うには、人の行動がどのように変化するかを理解することが欠かせません。人事政策研究所の講座では「行動の3ステップ」という考え方が紹介されています。これは、「できない・分からない」段階(ステップ①)から「時々できる」(ステップ②)を経て、「常にできる」(ステップ③)へと成長していくプロセスを指します。

この3ステップを意識することで、教える側は相手がどの段階にいるかを把握し、それに応じた支援を行うことができます。つまり、OJTとは単なる指導ではなく、行動変容の段階をデザインする“科学的な教育プロセス”なのです。

Aの壁 ― 「できない」を超えるための細分化

多くの新入社員や若手社員が最初にぶつかるのが、「Aの壁」と呼ばれる「できない・分からない」段階です。ここで重要なのは、行動を細分化して伝えることです。たとえば「商談をまとめる」という大きな課題を教える際に、「挨拶をする」「課題を聞き出す」「提案をまとめる」といった小さな行動単位に分けて教えることで、学習者が確実にステップを踏めるようになります。

さらに、トレーニングを定期的に実施することで「慣れ」を育てることができます。たとえば毎週特定の時間を設けて練習を繰り返すなど、行動のリズムを作ることが、Aの壁を突破する効果的な方法です。

Bの壁 ― 習慣化で「常にできる」へ

次に待ち受けるのが「Bの壁」、つまり「時々できるけれど、常にできるわけではない」という段階です。この壁を越えるには、行動を“習慣化”する必要があります。ここで活用されるのが行動分析学のABCモデルです。

Aは「きっかけ(Antecedents)」、Bは「行動(Behavior)」、Cは「結果・報酬(Consequences)」を表します。人は行動の直後に肯定的な結果が得られると、その行動を繰り返す傾向があります。つまり、指導者が「良い行動をすぐに認め、ほめる」ことで、行動が定着しやすくなるのです。

「すぐにほめる」ことの効果は科学的にも裏付けられています。講座資料でも「0秒でほめる」ほど行動の発生率が高いと示されています。行動の継続を促す報酬設計こそ、Bの壁を破る最大の鍵です。

eラーニングでOJTを仕組み化する

eラーニング

OJTの弱点を補うeラーニングの役割

OJTは非常に実践的で効果的な教育手法ですが、現場任せになりやすいという弱点があります。担当者によって指導内容にばらつきが生まれたり、忙しさのあまり教育が後回しになったりすることも珍しくありません。そこで近年注目されているのが、eラーニングをOJTと組み合わせる方法です。

eラーニングを導入することで、OJTの基礎知識や教育理論を全員が共通理解として持つことができます。これにより、現場のOJT担当者が「何を教えるか」「どのように教えるか」をあらかじめ学べるようになり、教育の質を均一化できるのです。

成功事例 ― 教育担当者が“教え方”を学ぶOJT研修

ある企業では、管理職やリーダー層を対象に「OJTの進め方」をテーマとしたeラーニング研修を実施しました。この研修では、部下の行動を観察し、成長段階に応じて適切にフィードバックする方法を学びます。その結果、各部門で新人教育の質が向上し、半年後には定着率が大きく改善したといいます。

このように、eラーニングはOJT担当者自身のスキルアップを促す“教育の教育”としても活用できます。現場のリーダーが教え方を学ぶことで、OJT全体の成果が飛躍的に向上します。

費用対効果 ― 教育の再現性と効率性を両立

eラーニングを活用したOJT設計は、費用対効果の面でも大きなメリットがあります。集合研修のように会場費や交通費が発生せず、好きな時間に受講できるため、コストと時間の両方を削減できます。また、一度作成した教材を繰り返し活用できるため、教育の再現性が高まります。

さらに、学習データを蓄積することで、OJTの進捗や成果を可視化できる点も見逃せません。誰がどのスキルをどのレベルまで習得しているかを把握できれば、教育施策の改善にもつながります。これにより、企業全体で人材育成を仕組みとして運用できるようになるのです。

まとめ

OJTとは、単に仕事を通じて教える手法ではなく、「行動を設計し、再現性のある成長を生み出す教育体系」です。属人的な育成から脱却するためには、「教えるための設計図」を持ち、行動分析学を踏まえて段階的に指導することが欠かせません。

そして、OJTの効果を最大化するためには、eラーニングの導入が効果的です。知識や考え方を共通化し、現場の指導力を底上げすることで、OJTは“個人の経験”から“組織の仕組み”へと進化します。

「人を教えることは、二度学ぶこと。」――OJTの真価は、教える側の成長にもあります。教えることが学びとなり、その学びがまた次の人を育てる。そんな成長の循環を、eラーニングと共に実現することが、これからの時代の人材育成の理想形と言えるでしょう。