セクシャルハラスメント(セクハラ)が犯罪となる事例は?訴訟の流れや被害者の対処法も解説

職場でのセクシャルハラスメントは、近年、社会問題としてより注目されています。軽い冗談や行為が相手に深い苦痛を与え、職場環境を悪化させ、労働者の権利や尊厳を侵害する可能性がある場合、犯罪として訴えられることもあります。さらに、企業が適切な対応を怠ると、被害者だけでなく企業全体にも大きなリスクが生じるでしょう。

本記事では、社内で起こるセクシャルハラスメントについて、犯罪となる事例や訴訟になった場合の流れ、被害者が取るべき対処法について詳しく解説します。

目次

セクハラが犯罪となるケース

職場でのセクハラは、単なるマナー違反にとどまらず、状況によっては犯罪として処罰される可能性があります。この章では、刑法に該当する行為と具体例について解説します。

刑法に該当する行為

セクハラが刑法に触れる行為となるのは、加害者の行為が被害者の身体的・精神的な自由を著しく侵害した場合です。以下は、該当しやすい主な犯罪と具体例です。

不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)<刑法第176条>

相手の同意を得ずに、突然女性に抱きついたり胸に触れたりする行為は、不同意わいせつ罪に該当します。

【例】会議室などで無理やり抱きつく、エレベーター内で密着する

不同意わいせつ罪が成立した場合、刑罰としては、6ヶ月以上10年以下の懲役が科される可能性があります。

不同意性交等罪(旧強制性交等罪)<刑法第177条>

性行為を無理やり強要する場合に適用されます。職場内外を問わず、被害者が拒否したにもかかわらず力を用いて行為を行った場合、非常に重い刑罰が科されます。

【例】飲み会の後、酔った状態で無理やり関係を迫る

不同意性交等罪が成立した場合、刑罰としては、5年以上の有期懲役が科される可能性があります。

参考:刑法|e−Gov法令検索

名誉毀損罪や侮辱罪(刑法第230条・231条)

セクハラ行為のなかには、発言によるセクハラ(セクハラ発言)もあります。性的な発言をすることで被害者を傷つけた場合、名誉棄損罪や侮辱罪の刑事上の責任が生じます。

【例】「髪、切ったね。彼氏と別れたの?」「もう更年期だからな」などの発言

  • 名誉毀損罪(刑法230条)
    セクハラ発言によって事実を指摘し、被害者の社会的評価を損なった場合、3年以下の懲役または禁錮、あるいは50万円以下の罰金
  • 侮辱罪(刑法231条)
    事実の指摘がなくとも、不快な感情を抱かせた場合、1年以下の懲役または禁錮、30万円以下の罰金、拘留または科料

参考:刑法|e−Gov法令検索

過去の裁判例から見る具体的な事例

ここでは、セクハラが訴訟になった事例を3つ紹介します。

事例1. 部下の異性関係を非難した事案

編集長が部下の女性従業員の異性関係を非難し、評価を低下させた結果、女性が退職に追い込まれました。

<裁判所の判決>
編集長の行為は不法行為に該当すると判断。また、職場環境を守る配慮義務を怠った会社の専務の対応も問題視され、編集長と会社に対し165万円の損害賠償が命じられました。

事例2. セクハラ発言を行った者への懲戒処分の妥当性が問われた事案

営業部課長代理である原告が、同僚女性に「結婚もせずに何をしているのか」や「30歳はおばさんだ」などのセクハラ発言を繰り返し、会社から出勤停止10日と降格の懲戒処分を受け、この処分の有効性が争われました。

<裁判所の判決>
懲戒処分と降格は有効と判断。セクハラ発言は職場秩序に重大な悪影響を与えるもので、処分には合理性があり濫用ではないと認められました。また、降格も就業規則に基づくもので適法とされました。

事例3. 男性上司が女性従業員の体に触るなどの行為を行った事案

男性上司が、女性の従業員に対して、肩を叩く、髪を触る、腰を触る、後ろから抱きつく、首筋にキスをするなどを行い、行為がエスカレートしたケースです。

<裁判所の判決>
加害者に対して250万円の慰謝料などを支払う義務があると認められました。

おすすめ

ハラスメント研修

ハラスメントは、良好な職場環境を保つために決して許されるものではなく、社員の精神的健康を守るためにも非常に重要なテーマです。 ビズアップ総研では、ハラスメントが企業・団体に及ぼす悪影響を様々な観点で学べる講座を多数ご用意しています。eラーニングで気軽に学べるe-JINZAIの2週間無料お試しID発行も行っておりますので、この機会にぜひご利用ください。

詳細・お申し込みはこちら

セクハラ訴訟の流れ

セクハラ訴訟とは、セクハラ被害に対して慰謝料を請求するために起こされる訴訟のことです。セクハラの内容によっては不同意わいせつ罪や不同意性交罪に該当し、刑事裁判に発展する可能性もありますが、ここでは民事訴訟における慰謝料請求について解説します。

セクハラ被害で加害者や会社を訴える際の訴訟手順は、以下の通りです。

  1. 訴状の提出
  2. 裁判の提起
  3. 口頭弁論
  4. 争点整理
  5. 証拠の調査
  6. 判決

1. 訴状の提出

セクハラを訴える際は、まず訴状を提出します。訴状には、以下の内容を記載します。

  • 原告の氏名と住所
  • 被告の氏名(加害者)や法人名(会社)および住所
  • セクハラ行為の具体的な内容
  • セクハラによる被害や損害の詳細
  • 請求する損害賠償(慰謝料)の金額

2. 裁判の提起

裁判を起こす際には、証拠や証拠証明書とともに訴状を提出します。弁護士に依頼する場合は訴訟委任状が必要です。加害者だけでなく会社も訴える場合には、会社の商業登記簿謄本の提出が求められます。訴状が受理されると、裁判所は被告に対し答弁書の提出を命じます。答弁書とは、訴状の内容に対して被告が認める点や否認する点、さらに被告の主張を記載した書類です。

3. 口頭弁論

裁判所は、原告と被告を召喚して口頭弁論を行います。口頭弁論は、裁判官の前で当事者や弁護士が主張し、証拠を提示する手続です。裁判官は、当事者の態度や表情をもとに、主張の信憑性を判断します。

4. 争点整理

口頭弁論が終了すると、次は弁論準備期日が設定されます。この期間では、証拠の提出や証人尋問に向けた準備が行われ、各当事者の主張が整理されます。

6. 証拠の調査

争点整理が完了すると、次に争点に関する主張の真偽を確認するため、証拠を調査する段階に進みます。セクハラの証拠は、録音や日記などが一般的です。また、証人尋問が行われることもあり、社内の目撃者などにも実施されることがあります。

6. 判決

裁判官は、提出された証拠をもとに事件の事実を確認し、その上で法律に従って判断を下します。判決では、原告(訴えた側)の請求が認められるかどうかが決まり、認められた場合には、支払うべき損害賠償額が具体的に決定されます。

被害者が取るべき具体的な行動

セクハラ被害を受けた場合、被害者が冷静に対処することは非常に重要です。感情的になるのは当然ですが、適切な対応が被害の拡大を防ぎ、解決への道筋をつけることができます。この章では、被害者が取るべき具体的な行動について解説します。

1. 記録を残す

セクハラ行為を証明するためには、証拠が不可欠です。記録は後の相談や法的手続きで有力な材料となります。

行為の記録
日付、時間、場所、具体的な内容、加害者の名前や発言を詳細にメモする。
【例】「○月○日、オフィスで○○さんから『君の服装、男性を誘惑しているね』と言われた」など。

メールやメッセージの保存
加害者からの不適切なメッセージやメールを削除せず保存する。スクリーンショットを撮っておくのも有効です。

第三者の証言
セクハラを目撃した同僚などに協力を依頼し、証言を記録する。

2. 相談窓口に相談する

被害を一人で抱え込まず、適切な窓口に相談することで解決の可能性を広げることができます。まず、社内にハラスメント相談窓口や人事部が設置されている場合は、そこで状況を報告しましょう。社内での手続きとして、調査や対応が行われることがあります。

もし社内で解決が難しい場合は、外部機関を利用することも考慮しましょう。労働局や弁護士、女性専用の相談窓口など、専門機関には無料で相談に応じてくれるところも多く、外部からのサポートを受けることで、より確実な解決を図ることができます。

3. 直接的な対処法を検討する

場合によっては、加害者に対して直接的な対応を取ることが有効です。たとえば、行為が行われたその場で毅然とした態度を取り、「やめてください!」とはっきり伝えることが挙げられます。拒否の意思を示すことで、加害者に「この行為は許されない」という意識を持たせる効果があります。

自分だけで対処できない場合は、上司や信頼できる同僚に状況を共有し、間に入ってもらうことで解決につなげることができる場合もあるでしょう。このように、状況に応じて適切な行動を取ることが大切です。

4. 法的手段を視野に入れる

社内で解決できない場合や深刻な被害を受けた場合には、法的手段を検討することが重要です。専門の弁護士に相談することで、損害賠償請求や訴訟の可能性を探り、適切なアドバイスをもらえます。また、不同意わいせつ罪などの犯罪に該当する場合には、警察に相談することも有効な選択肢です。このように、状況に応じて適切な法的対応を視野に入れることで、問題解決の方向性を明確にすることができます。

まとめ

セクハラ行為は刑法などに基づき、刑罰が科される場合があり、刑罰が科されると、逮捕や実刑判決を受けることも考えられます。さらに、セクハラは会社の懲戒解雇の対象となり、解雇される可能性や、民事上では損害賠償責任が発生することもあります。セクハラにはこれらの法的責任が伴うことを十分に理解しておくことが重要です。

また、被害者は加害者に対して毅然とした対応を取ることも効果的ですが、精神的なケアを優先し、無理せず専門的なサポートを受けましょう。社内での解決が難しい場合は、法的手段や外部機関の支援を検討することも大切です。セクハラ行為は放置すれば被害が拡大する恐れがあるため、被害を受けた際には速やかに行動を起こし、状況に応じた方法で対処しましょう。