マタハラとは|定義、職場での事例、発生原因、防止策を徹底解説

妊娠・出産、育児休業の取得に関連して発生するマタニティハラスメント、略してマタハラと呼ばれるこの問題は、社会的な関心を集めています。企業として、このようなハラスメントにどう対応してよいか苦慮されている方も多いでしょう。

この記事では、すべての会社員に向けて、マタニティハラスメントの定義、事例、発生原因、そして企業が実施すべきマタハラ防止措置・対策について解説します。

目次

マタニティハラスメントの定義

マタニティハラスメントとは、妊娠、出産、育児を機に職場で受ける不利益な扱いや嫌がらせを指します。例えば、女性従業員が妊娠・出産・育児に関連した社内制度を利用することを理由として、上司や同僚から嫌がらせや不当な扱いを受けるケースが多く見られます。

マタニティハラスメントという語は、「母性」という意味の「maternity(マタニティ)」と、「嫌がらせ、悩ます(悩まされる)」を意味する「harassment(ハラスメント)」を合わせた言葉です。

マタハラ被害の実態

「マタハラ被害実態調査」では、加害者のトップは直属の男性上司で、女性同僚によるマタハラが男性同僚より多い傾向が指摘されています。さらに、加害者には法律を守るべき人事部門も含まれ、順守意識が不足しているケースも確認されています。マタハラは企業の規模に関係なく発生しており、一般事務や医療・福祉介護といった職種で特に多くの事例が見られ、病院勤務の女性からの相談が目立っています。

職場でみられるマタハラの事例

実際に、どのような言動や対応がマタハラ行為にあたるのでしょうか。ここでは職場でよく見られるマタハラの具体例をいくつかご紹介します。妊娠中という心身ともに負担が大きい時期に、職場の心ない人たちの無神経な言動により心を傷つけてしまう方が多いようです。

  • 上司が「いつ休むか分からないから、大事な業務は任せられない」と伝える。
  • 同僚が「忙しい時期に妊娠されると困るから、時期を考えてほしかった」と非難する。
  • 産休の申請をした従業員に対して「休まれると業務に支障が出るので、退職した方が良いのでは?」と圧力をかける。
  • 妊娠中に時短勤務をしている従業員に対して「楽で良いね。こっちはその分大変なのに」と嫌味を言う。
  • 上司が「出産後は家庭に専念した方が良いから、仕事を辞めたらどうか」とすすめる。
  • 上司が「大変だから仕事内容を変えるね」と本人に相談せずに変更を行う。
  • 妊娠を理由に「体調が不安定だから、重要な仕事は君に任せられない」と業務から外される。
  • 妊婦健診のため休みを申請した従業員に「通院は勤務時間外にしてほしい」と言う。
  • 上司に育児休業の取得を相談したら、「次の昇格はないだろう」と言われた。
  • 育児短時間勤務中の従業員に対して「あなただけ優遇されている。こちらの負担が増えて大変だ」と責められる。
  • 育休後に復職した従業員に対して「子供を小さいうちから保育園に預けるなんてかわいそう。辞めたら?」と同僚が言う。

これらの事例から明らかなように、マタハラには2種類のタイプがあります。

1つ目は、出産や育児に関する社内制度の利用を妨げる言動です。産前・産後休暇や育児休暇などの制度は、「男女雇用機会均等法」および「育児・介護休業法」によって保障されています。仕事が忙しい、欠員が出たといった理由があっても、無意識にこれらの制度の利用を妨げるような言動は、マタハラにつながる可能性があるため、注意が必要です。

2つ目は、妊娠や出産によって働き方に変化が生じた際に、嫌がらせをする行為です。例えば、妊娠中に「いつ休むか分からない」という理由で仕事を任せない、業務連絡をしない、会議から外すなどの行為が該当します。

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マタハラが起こる主な原因

マタハラ対策には、まずマタハラがなぜ起こるのか、その原因を理解することが重要です。主な原因を3つ紹介します。

職場環境に余裕がない

仕事が忙しすぎるなど職場環境に余裕がないと、部下や同僚の妊娠・出産を心から祝福できず、それがマタハラにつながる可能性があります。人手が足りず、プレッシャーが多い環境、または繁忙期など、余裕がない状況では、出産予定の社員がいると、「効率が悪くて困ったものだ」という感情を抱くかもしれません。

制度が整っていない

マタハラが発生しやすい要因として、関連する制度や規定が不十分であり、従業員や管理者がそれについて認識不足であることが挙げられます。

例えば、ハラスメントの相談窓口が設置されず、防止する規定も定められていないと、ハラスメントが繰り返されます。マタハラが繰り返されることが当たり前のような状況になると、「妊娠したらここは辞めなければならない」と思い込むようになるでしょう。このような思い込みがさらにマタハラに拍車をかけ、悪循環に陥る可能性があります。そのため、まず制度を整えて、従業員全体の意識を変えることが重要です。

性別的役割分担意識

性別に基づく役割分担意識とは、単純に言えば、仕事の分担を性別で区別することです。かつての日本社会では、「男性は職場で働き、女性は家庭で家事に専念する」という考え方が一般的であり、一部の男性には「女性には責任のある仕事を任せられない」「女性は働かずに家事に専念すべきだ」という意見が見られました。こうした意識の持ち方がマタハラにつながるとも言えます。

しかし、現在は男女雇用機会均等法の成立により、性別に基づく固定観念が見直され、女性のキャリアが注目される時代に変化しています。したがって、「女性だから…」という理由でハラスメントを受けるのは、到底許されるべきではありません。

加害者や企業が負う責任

マタハラが発生した場合、加害者や企業はどのように責任を負うのでしょうか。以下に、加害者と企業それぞれの責任について説明します。

加害者

マタハラの加害者は、民法709条により、「損害賠償責任」を負う可能性があります。また、特に悪質な事例の場合、「名誉棄損罪」(刑法230条)」、「侮辱罪」(刑法231条)などの刑事責任を負うケースも考えられます。このような法的責任だけでなく、会社側からは就業規則違反による懲戒処分が下されるかもしれません。

企業

会社には、「使用者責任」と「安全配慮義務違反」への責任が問われることがあります。

使用者責任は、会社の従業員が他人に損害を発生させた際に、従業員だけでなく会社も被害者への損害賠償責任を負うことです。マタハラが起きた場合、民法715条により、企業は使用者責任を負います。

安全配慮義務は、従業員が安全かつ健康に働けるように会社が配慮すべき義務のことです。マタハラ発生時に、労働契約上の安全配慮義務違反として、「債務不履行責任」または「不法行為責任」を問われる可能性があります。前者は民法415条、後者は同709条に規定されています。

事業主が講ずべき「マタハラ防止措置・防止対策」

2017年(平成29年)1月から、職場で上司や同僚によるマタハラ行為で就業環境を悪化させないようにするため、企業には防止措置を義務付けています。これが「マタハラ防止措置・防止対策」です。

以下で詳しく見ていきましょう。

マタハラ防止に向けた方針の明確化と周知

事業主は、マタハラが起きないように、方針を作り、それを従業員にしっかり伝える責任があります。この方針を作る際には、次の点に注意して作成しましょう。

  • マタハラとは何か、具体的な例を示す
  • マタハラが起こる理由や背景
  • マタハラを認めないという立場を示す
  • マタハラ行為に対して厳しく対応することと、その対応方法を示す
  • 妊娠や出産、育児に関する支援制度が使えることの説明
  • マタハラの相談窓口の案内

相談窓口の設置

マタハラなどの嫌がらせは、会社が早く気づかないと、解決に時間がかかってしまいます。そのため、早めに対応できるような仕組みを作っておくことが大切です。まずは、相談窓口を設けましょう。

厚生労働省の指針では、以下のことが求められています。

  • 相談を受ける担当者や部署を決め、従業員全員に知らせること
  • マタハラが実際に起きた場合だけでなく、リスクがある場合や判断が難しい場合でも、適切に相談に応じること
  • マタハラ、セクハラが同時に起こることも少なくないため、マタハラの相談窓口でセクハラの相談も受け付けていることを従業員に知らせること

マタハラ発生時の適切な対応

マタハラが起きたときの正しい対応について、厚生労働省の指針が示されています。

以下のポイントを確認しましょう。

  • 相談担当者は、被害を訴えた人と加害者の両方から話を聞く。
  • 両者の話が食い違った場合、目撃者など第三者からも話を聞き、事実を確認する。
  • 事実が確認できない場合は、中立的な第三者機関に解決を依頼する。
  • マタハラが確認された場合、被害者への配慮と加害者への適切な処分を行う。
  • マタハラが確認されなかった場合も、再発防止のために研修などを行う。

まとめ

マタハラは、妊娠や出産、育児に関連する嫌がらせだけでなく、育児休業の拒否や解雇といった問題まで含まれています。こうした行為は、妊娠、出産、育児をしながら仕事を頑張っている女性従業員を精神的にも肉体的にも苦しめるものです。被害に遭った女性労働者は、早めに「ハラスメント相談窓口」などに相談し、事例に応じたアドバイスを受けましょう。

また、企業は相談窓口を設置し、会社としての方針を明確にし、全社員に周知することが重要です。マタハラ発生原因の解消に向け、マタハラが起こりにくい職場、起きた場合は早期に解決できる職場を目指しましょう。