メンター制度はいらない?形だけの制度にしないための考え方
「メンター制度があるのに、なぜか相談しづらい」
そんな経験はないでしょうか。
会社からメンターを紹介されても、先輩が忙しそうにしていると、声をかけることをためらってしまうものです。「こんな些細なことを聞いていいのだろうか」「頼りすぎていると思われないだろうか」と考え、結局一人で悩んでしまうこともあるでしょう。
メンター制度は、若手社員の成長やキャリア形成を支える仕組みとして導入されています。しかし、担当者を決めるだけでは、相談しやすい環境ができるとは限りません。
この記事では、メンター制度が「いらない」といわれる理由を、成功・失敗のパターンを比較しながら検証し、制度を形骸化させないための工夫を紹介します。
メンター制度とは?OJTや1on1との違い
メンター制度とは、経験豊富な先輩社員がメンターとなり、後輩社員(メンティー)の成長やキャリア形成を支援する仕組みです。厚生労働省の「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」では、メンター制度について、先輩社員が双方向の対話を通じて、後輩社員のキャリア形成上の課題解決や悩みの解消を支援するものと説明しています。
参考:厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」
OJT・1on1との違い
| 制度 | 主な目的 | 特徴 |
|---|---|---|
| メンター制度 | 成長・キャリア形成の支援 | 先輩社員などが相談に乗る |
| OJT | 業務スキルの習得 | 実際の仕事を通して指導する |
| 1on1 | 部下の成長支援・課題把握 | 主に上司と部下が対話する |
※一般的な特徴を整理したものであり、実際の運用は企業によって異なります。
メンター制度の特徴は、直属の上司とは異なる立場から、仕事やキャリアについて相談できることです。ただし、制度が存在することと、社員が実際に相談できることは別問題です。
メンター制度が「いらない」といわれる4つの理由

メンター制度が不要だと感じられる理由は、必ずしもメンターへの不満だけではありません。相性が良く、親切なメンターが担当していても、制度を活用できない場合があります。
1. メンターが忙しそうで相談しづらい
メンター制度で見落とされがちなのが、相談する側の遠慮です。例えば、親切で話しやすい先輩がメンターになったとしても、その先輩が日々の業務に追われていたらどうでしょうか。
「今、声をかけたら迷惑かもしれない」
「また質問していると思われないだろうか」
「これくらいは自分で調べるべきではないか」
こうした遠慮が積み重なると、本来は相談するための制度であるにもかかわらず、メンティーが自分から声をかけられなくなってしまいます。これは単純にメンターとの相性を改善すれば解決する問題ではありません。相手の厚意に頼る仕組みでは、相談する側が負担を感じてしまう可能性があるのです。
2. どこまで頼ってよいかわからない
メンター制度には、相談できる範囲が曖昧になりやすいという課題もあります。
例えば、次のような疑問です。
- 資料の作り方など、細かい業務の質問をしてもよいのか
- 上司との人間関係について相談してもよいのか
- キャリアの悩みだけを話すべきなのか
- 相談の頻度が多すぎると迷惑になるのか
制度の目的や役割が十分に説明されていなければ、メンティー自身が相談してよい内容を判断しなければなりません。その結果、相談すること自体に気を遣ってしまう場合があります。
3. 面談がメンターの悩み相談になってしまう
親しみやすい関係を築けたからといって、必ずしも適切なメンタリングが行われるとは限りません。
例えば、メンターが自身の仕事の悩みや職場への不満を話すことに時間を使い、メンティーが聞き役になってしまうケースです。もちろん、メンターが自身の経験を共有することには価値があります。しかし、メンターの話が中心になり、メンティー自身の相談ができなければ、制度本来の目的から離れてしまいます。
メンタリングは双方向の対話ですが、単なる雑談や愚痴の交換とは異なります。
4. 制度があることで、かえって相談相手が限定される
メンター制度を導入すると、メンティーが「困ったことは担当メンターに相談するもの」と認識する可能性があります。しかし、実際の仕事では、相談内容によって適切な相手が異なります。
資料作成なら同じ業務を担当する先輩、キャリアの悩みなら別部署の先輩、労務上の問題なら人事担当者など、さまざまな相談先が考えられます。特定のメンターだけに相談を集中させるよりも、複数の相談先を確保した方が合理的な場合もあるでしょう。
メンター制度の成功・失敗パターンを実体験から考える
ここでは、実際にメンター制度を利用した経験をもとに、制度が役立った場面と、うまく機能しなかった場面を紹介します。なお、以下は一個人の経験であり、メンター制度全体の効果を示すものではありません。
成功パターン:社内の「暗黙のルール」を教えてもらえた
メンター制度が役立った場面として挙げられるのが、社内の「暗黙のルール」を教えてもらえたケースです。
たとえば、資料の文字サイズや色味など、その会社では当たり前でも、入ったばかりの人にはわからないことがあります。こうした内容はマニュアルに載っていない場合も多く、先輩から教えてもらえるだけで仕事の進めやすさは大きく変わります。
メンター制度の良さは、こうした明文化されていない知識を補えることにもあります。ただし、重要なのは制度の有無よりも、新人が安心して聞ける環境があるかどうかです。
資料の内容そのものより、「この会社ではこのフォントを使うといい」「提案資料はこの色味を使うことが多い」といった作法を教えてもらえたのが助かりました。細かいことですが、最初はそこがわからず手探りでやっていたので、かなり仕事がしやすくなりました。
失敗パターン:気さくなメンターなのに、相談できなかった
一方で、メンターが気さくで話しやすい人でも、制度がうまく機能しないことがあります。たとえば、面談の時間がメンティーの相談ではなく、雑談の時間になってしまうケースです。人柄が良いことと、相手の成長を支援できることは、必ずしも同じではありません。
このような失敗を防ぐには、相性や人柄だけに頼るのではなく、面談の目的や進め方を共有しておくことが大切です。
メンターの方はとても話しやすかったのですが、年が近いこともあり、好きな芸能人やキャラクターの話をする雑談タイムとなってしまい、仕事の話はほぼしていません…。
成功と失敗を分けるのは「相談できる環境」
二つの経験を整理すると、次のような違いが見えてきます。
| 観点 | 成功につながった経験 | 課題が残った経験 |
|---|---|---|
| 相談内容 | 社内の暗黙のルールを教わった | メンター自身の悩みが中心になった |
| メンターの役割 | 必要な知識を共有した | メンティーの相談を十分に受けられなかった |
| 得られたもの | 業務を進めるための具体的な知識 | 親しみやすい関係はあったが、支援は不十分 |
| 運用上の示唆 | 知識を共有できる環境が重要 | 対話の目的と役割の共有が必要 |
この比較から、メンター制度の成否を単純に担当者の性格や相性だけで判断することには限界があると考えられます。制度が機能するためには、メンターとメンティーの双方が、何のために対話するのかを理解している必要があります。
メンター制度を形骸化させないための3つの工夫
メンター制度を導入しても、面談が形式的になったり、メンティーが遠慮して相談できなかったりする場合があります。制度を形骸化させないためには、メンター個人の善意や努力だけに頼らない仕組みづくりが必要です。
1. 相談できる範囲を明確にし、時間を確保する
メンティーが相談をためらう背景には、「どこまで頼ってよいかわからない」「忙しい先輩の時間を奪いたくない」という遠慮があります。
そのため、制度の開始時には、キャリアの悩みや職場での人間関係など、相談できる内容を具体的に説明しておきましょう。また、月に1回30分など、あらかじめ面談時間を業務予定に組み込むことも効果的です。
相談する側が毎回相手の都合をうかがわなくてもよい環境を整えることで、心理的な負担を減らせます。メンター側の業務量にも配慮し、無理なく対応できる体制をつくることが大切です。
メンターとメンティーの面談時間は、あらかじめ業務予定に組み込むことにしています。また、業務上の質問は直属の上司やチーム内でも受け付け、メンターだけに相談が集中しないようにしています。
2. メンターに対話の基本を学んでもらう
経験豊富で親切な社員でも、必ずしもメンタリングが得意とは限りません。自身の経験を伝えようとするあまり、メンティーの話を聞く時間が少なくなってしまうこともあります。
メンターには、傾聴や質問の方法を学び、相手の考えを引き出す姿勢を身につけてもらうことが重要です。例えば、すぐに助言するのではなく、「今、何に困っているのか」「どのような状態を目指したいのか」と問いかけることで、メンティー自身が課題を整理しやすくなります。
メンターの役割は、すべての問題に答えを出すことではありません。必要に応じて適切な相談先につなぐことも、大切な支援の一つです。
3. 面談回数ではなく、相談のしやすさを振り返る
月に1回の面談を欠かさず実施していても、メンティーが本音を話せていなければ、制度が十分に機能しているとはいえません。
制度の効果を確認する際は、実施回数だけでなく、「困ったときに相談できたか」「面談で自分の悩みを話せたか」「相談することに負担を感じていないか」といった点にも目を向けましょう。
メンター側にも負担や困りごとを確認し、必要に応じて担当者の変更や面談方法の見直しを行います。双方が安心して利用できる状態を維持することが、制度を長く機能させるためのポイントです。
メンター制度よりも大切なのは、日常的に相談できる組織文化

ここまでの問題を踏まえると、メンター制度の導入を検討する企業には、一つ考えておきたいことがあります。それは、「メンターを配置すれば、社員は相談しやすくなるのか」という点です。
日常的に質問できる環境を作る
会社がメンターを配置しても、メンティーが相手の忙しさを気にして声をかけられないのであれば、制度の効果は限定的です。また、メンターがいなくても、わからないことがあれば周囲の社員に気軽に質問できる職場では、多くの問題を日常的に解決できるでしょう。
例えば、新入社員が資料を作成するとき、隣の席の先輩に「この会社では何色を使うことが多いですか?」と気軽に尋ねられる環境です。こうした小さなやり取りの積み重ねは、仕事の進めやすさだけでなく、職場への適応にも役立ちます。
「質問しやすさ」を個人の性格に任せない
相談しやすい環境づくりというと、社員同士が仲良くなることを思い浮かべるかもしれません。しかし、必ずしも親密な人間関係を築く必要はありません。
例えば、次のような仕組みが考えられます。
- 質問を受け付ける時間帯を設ける
- 社内チャットに質問用のチャンネルを設置する
- よくある質問を共有し、誰でも確認できるようにする
- 定期的に業務上の困りごとを確認する
- 相談内容に応じた担当者や窓口を明確にする
これらは、相談する側が相手の都合を過度に気にせず、必要な支援を受けられるようにするための工夫です。
特に、メンティーが「頼りすぎていると思われるのではないか」と不安を感じる場合、相談できる時間や方法をあらかじめ決めておくことで、心理的な負担を軽減できる可能性があります。
制度が必要な職場もある
もっとも、日常的に相談できる組織文化が重要だからといって、メンター制度が不要になるとは限りません。部署内では相談しにくい問題や、直属の上司には話しづらいキャリアの悩みもあります。
日常的な相談環境とメンター制度は、どちらか一方を選ぶものではありません。普段の業務では周囲の社員に相談し、キャリアや職場の人間関係などについては、直属の上司とは別のメンターに相談する、このように役割を分けることで、それぞれの仕組みを活かせるでしょう。
メンター制度の改善には、メンタリング研修の活用も
メンター制度を機能させるためには、相談しやすい職場環境を整えることが重要です。しかし、相談の機会を増やすだけでは解決できない問題もあります。
例えば、メンターとメンティーの関係が良好でも、メンターが自分の経験を話すことに偏ってしまい、メンティー自身の悩みを十分に聞けない場合です。こうした課題に対しては、メンターが適切な対話の方法を学ぶことも、一つの解決策になります。e-JINZAI lab.のメンタリング研修では、メンタリングの基本から実践までを体系的に学べます。
研修では、メンターの役割やコーチングとの違いに加え、「聴き方」「質問」「アドバイス」の具体的な方法を解説しています。メンター制度を単なる面談の仕組みで終わらせず、社員の成長を支える機会にするために、対話スキルの習得にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
メンタリング
メンタリングの基本から実践までを体系的に学ぶ研修です。メンターの役割やコーチングとの違い、「聴き方」「質問」「アドバイス」の具体的な手法を解説します。メンティーの主体的な成長を支援したい方におすすめです。
まとめ
メンター制度は、若手社員の成長やキャリア形成を支援する仕組みですが、導入しただけで社員が相談しやすくなるわけではありません。相性の良いメンターがいても、忙しそうな相手に遠慮してしまったり、どこまで頼ってよいかわからなかったりすることがあります。
また、メンター自身が話すことに偏り、メンティーの相談を十分に受けられない場合もあります。こうした問題を防ぐには、制度の目的や役割を明確にし、メンターの育成と業務上の負担への配慮を行うことが重要です。
そして、忘れてはならないのが、メンター制度は相談しやすい職場をつくるための手段の一つであり、制度そのものが目的ではないという点です。メンターがいるかどうかだけでなく、社員が必要なときに必要な相手へ相談できるか。その視点から、人材育成の仕組みを見直していくことが大切です。


